TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[4-27]

「まずは…ここっすね」
　最初に案内されたのがミナハ薬店の三番店。あのシャーマニーさんが店長格って役職に就いてる店なんだけど…。
「どうした？　何ハトが豆鉄砲くらったような顔してんだよ？」
　…こんな近い場所にあるんならそう言ってくれたらよかったのに。あの広場から歩いてどう、とかそういう距離じゃない。広場からはいくつか道が伸びてて、そのうちの一本はジャスミンさんの宿屋の前を通っている。それとは別の少し狭い道はラン君と初めて会った時に走らされた道。…そして一番太い道は大聖堂への道にも繋がってるんだけど…。
　その少し狭い道を、ちょっとだけ進む。すると今度は少し太い道にぶつかる。その交差点を左折。すると…目の前に看板がある。『信用と信頼の薬店。ミナハ薬店三番店にようこそ』って。
　…別にここを待ち合わせ場所にしたって良かったんじゃ…道順教えててくれれば問題なさそうなんだけど。

「まあ、入ってくれよ」
　三番店の前の道はそれほど太くはない。馬車も通れるけどあんまり大きな荷馬車は無理かな…ってくらい。大通りってわけじゃないんだ。でもそれなりに人の行き来する道みたいで、買い物カゴ持った女の人や若い男の人、それにカップルや家族連れなんかも通ってる。あ、そっか…商店街になっているんだ。この道の両側。小さいけどいくつかお店が並んでる。ボクらが出てきた道からは、ちょっと想像がつかなかった。裏路地からひょっこり出てきたような感じだもんなあ…さすがは地元のヒトだ。
「どうしたんだよ？」
「いや、なんでもないよ」
　ドアに手をかける。メリッサ姉さんの店よりは…一回り大きいのかな、ってくらい。きしむこともなく、すっと開く。

　姉さんの店はドアを開けるとすぐに「ああ」って納得させてくれるものがある。匂いだ。その時々によって違うことも多いけど、ベースになるのはやっぱりどこか遠い国を思わせてくれる不思議な香り。その上に、つん、と鼻を刺すような匂いだのお酒のような甘い匂いだの。他にはちょっとヤバそうな果物の甘ったるい匂いだとか古い本に浸み込んでしまっているほこりっぽい匂いだとか。
　何せたくさんの品物とか、もちろん薬草や薬品なんかがあるものだから、どうしても独特で特有の匂いがあちこちについてしまう。さらに姉さんがあの性格だから…カウンターの上に色々出しっ放しにしてそういうのの匂いが立ち込めて…ってこともよくあるんだ。まあ、大抵はエマがそうなる前に片付けちゃうからそんなにひどくはないんだけどね。
　それでも普通の人には大分きつい匂いなのかも知れない。店に入った瞬間、鼻をおさえるとか眉間にシワ寄せるとか。そういう反応をする人ってのも結構いるからね。…姉さんはあんまりそういうの気にしないけど。
　ここもそれと近い匂いがする。そういう意味ではボクにとっては懐かしい匂いになるのかな。
　店内にはボクたち三人と…店員さんらしい男の人と女の人が一人ずつ。…お客さんはいないかな。
「おう。ラン坊じゃねえか。…どした？　最近見なかったけど女でもできたか？」
　いきなりラン君の頭つかまえてぐりぐり。…ノリが誰かに似てるような。
「いて、痛えって…サイラスさん。放せってば」
「いんや。長老とモメるような悪ガキには、これだ。ぐりぐりぐりぐりぐり」
「うわー…いてえいてえ、いてえってば。オレが悪かったからかんべんしてくれ…」
　両拳を頭に突き立てて…うわ、痛そうだ…タミィ義姉よりひどいかも、こりゃ…。

「いらっしゃい。シャーマニーちゃんの言ってたマルティンさんとアレンさんですか？」
　と、物腰の柔らかそうな女の人がにこやかに声をかけてきた。雲みたいな、どこかつかみどころのない笑顔。
「はい。えーと、その、シャーマニーさんは…？」
「奥で作業中なんですよ。…もうすぐ出てきますから。…あらごめんなさい。わたしったら自己紹介もしないで。…ここ、三番店の店長やってます。タルーラ・ミナハと言います」
　と、まだラン君の頭ぐりぐりやってる男の人の…髪の毛ごと頭をむんず、と掴む。おいおい。にこやかな顔ってのが逆に怖いぞ…。
「こちらが副店長のサイラス・ミナハです。…ほら、ご挨拶」
　今度はつかんでた頭ごとぐいっと下げさせる。なんか、その…おっとりしたお姉さん、って印象だったんですが、その、なんか頭掴んだり下げさせたりする時だけ動作が異常に早くなるんですが。そこだけまるで別人みたいだ…。
「ええい、放せ！　ったく。これ以上抜けたらどうするんだ…ほんとに…」
「あら？　もうそろそろ引導渡してもいい頃じゃない？　もうこれからは期待できそうもない頭なんだし…ねえ？」
　これが怒った顔とか引きつった顔ならなんとなく納得できるんだけど。…満面の笑みでこういうこと言ってるんだな、これが。声もふんわりほんわかって感じだし。顔だけ見てたら上機嫌でにこやかなんだけど…。
「タルーラさんは親父のいとこの叔父さんの子供なんだ」
　首をふりふりラン君。
「で、サイラスさんはその親父のいとこの叔父さんの兄の子供で二人ともガキの頃から仲良かったんだと」
　仲、いいのか…あれで。