TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[4-30]

　シャーマニーさんがお弁当食べ終えるのはそんなに時間かからなかった。いつも家で作ってきてここで食べてるんだそうだけど。
「さあ、行きましょうか」
　しかしそれにしても早すぎないか…？　さっき奥の方へ戻ったばかりだと言うのに、すぐにこっちへ戻ってきた。…いつの間に食べたんだろう？　それともそんなにたくさんはなかったのかな？　それとも…食べるのがすごく早いとか。ラン君も何も言わないからいつもこんな感じなのかも知れない。

「また来いよ」とサイラスさんに背中を思い切りどやされて（で、前を歩いてたラン君にぶつかって二人とも盛大に転がってしまって…）「また来るわよねえ、来ないわけないわよねえ」とタルーラさんの妙に迫力のある言葉に送り出されたのは…お昼も過ぎた頃だろうか。
　次は…あの本店に行こうか、ってことになった。もちろんボクに異存はない。
　アレンさんは以前に来たことがあるんだそうだ。マリアも。でも…マリアが来た時とアレンさんが来た時とでは大分印象が違ってるって話だった。本店はカラドリアの薬協支部とくっついているんだけど、その薬協支部の管理人さんが、特に。
「まるで別人みたいでしたから。…ちょっとびっくりしましたよ」
「そうですねえ…ここんとこは見てて心配になるくらい動いてるんですよ、ジョーンズさん」
　シャーマニーさんが考え考え話してくれる。第三店長格ならそれほど頻繁には本店には行ってないんじゃないか、と思ったんだけど実際は結構行ってるんだそうだ。会議なんかあると大抵は本店の会議室を使うもんなんだそうだし、店長さんや副店長さんもみんなミナハの人間だからみんな本当の意味での身内、ってことになるし。仕事以外でで会うこともよくあるんだそうで、集合場所に本店が使われることもよくあることなんだとか。
「たしかに以前のカラドリア薬協、って言うとほとんど廃墟みたいなものだったの。あの頃は…うちが一階で営業してて薬協が二階だったんだけど」
「それオレも覚えてる。ジョーンズさんってろくにメシも食ってない時も多かったんだよな？」
「そう。だからヤロミーラさんがご一緒しませんか、とかっていつも誘ってたのよね。でもほとんど受けずにいつも部屋の隅っこでうずくまってて…」
　と、そこでボクの視線に気づいてにこっと笑う。
「ヤロミーラ・ミナハ。本店の店長やってるの。アンバス長老の娘さんなの。…とっても優しい方だからマルティン君ともすぐに打ち解けると思うわ」
「優しいかねえ、あれが。オレにとってはいっつもいっつも口うるさくてうざってえオバハンだぜ？」
「それはあんたがいつもイタズラばっかしてるからでしょ？」
　なんだか印象に違いがあるんだけど、なんか分かる気がするな…多分、そのヤロミーラさんてあの長老のアンバスさんにとても似てるんじゃないのかな、と。二人ともラン君のことものすごく気にかけてくれてるんじゃないのかな、と思うんだ。実の娘だって言うし、なおさらそういうとこ似てるんじゃないのかな。

　三番店はジャスミンさんの宿屋の近くにあったんだけど、本店はそう簡単にはいかない。何せ『中央通り』という名前がついてるくらい栄えた場所にある。この辺の通りは路地みたいなものだからせいぜい馬車がやっと通れるくらいだけど、中央通りは馬車が四台楽に通れるくらいあるからね、とアレンさんが教えてくれた。
　でもゲルンタージュで一番大きな通りと言うとゲマ街道になる。ハイドシュタインもゲマ街道が中心になって発展してきた町だから、やっぱり真ん中をゲマ街道が通っててその辺りは繁華街になってる。
　カラドリアももちろんゲマ街道が貫いているんだけど…ちょっと違うのかな。来る時はゲマ街道からカラドリアに入ったはずなんだけど。
「そうだな。どっちかと言うと…中央通りの方が大きいって感じだよな」
「中央通りも町外れまで行くと結局はゲマ街道に吸収されてしまうのよ。でも町中じゃゲマ街道の方が小さくなっちゃうのよね」
　今、ボクらが歩いてるのは小さな路地なんだけど、そこからももちろんいくつもの道へと繋がっている。そんな道の一つへと、ふと、入り込む。細い道だ。…人一人通るのがやっと。
「マルティン君、見てごらん」
　アレンさんが指したのは…道端にあるから道しるべと言うか…それにしては小さいな、クツのかかとほどの高さもない。四角く切った石をそこらに埋め込んだだけ、みたいな…。
「これはイルトンランドだとこの辺だけに見られる基準石という石なんだ。ほら、少し刻んであって何か彫ってあるのが見えるかい？」
　…たしかに。なんて彫ってあるかまでは分からないけど…。
「大きな道を作る時にズレが生じたりしないように地面に一定間隔で埋め込んでいくものなんだ」