TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[4-31]

「へえ…」
　ラン君とシャーマニーさんもしゃがみこんでこわごわ触ってみたりしている。見たことないのかな…いや、普通はこんなの見ないよね。ボクだって道端のこんなのにまで気にとめたことないし。しっかし…見た目は小さな石なんだ、ほんと。半分くらい埋まった四角い石とかそんなもので、よくありそうな石ころでもある。むしろ…アレンさん、なんでこんなの知ってるんですか…。

「セントレランドのシポルニアス王国なんかだとこういうのはよく見つかるよ。首都のノスクルバーグははるか古代から街道の多い都市だったからね。そういう工事は基本だったのさ。…工法が変わってきてるから、最近の工事じゃこうやって基準石を埋め込むことはあっても最終的には撤去してしまうんだね。だからこれがあるってことはできた年代まで特定できるんだ」
　へー…そういうものなんだ…。
「イルトンランドでもこの辺だとこれが残ってるのはゲマ街道くらいだね」
「でも…ここ、この路地はゲマ街道じゃないっすよ？」
　ラン君がずっと続いている壁の向こう側を指してみせる。何よりこの人が一人やっと通れるくらいの細い路地があのゲマ街道だってのは…ちょっと信じられない。
「この向こうには家が並んでるんすけど。さらにその向こうがゲマ街道で…」
　そこでシャーマニーさんが何かに気づいたように目をぱちくりさせてみせる。
「まさか、ゲマ街道の上に家を建てちゃったってことですか？」
　えー…そんなことあるんだろうか…。

「おやおや？　基準石がここにあるってことからするとほぼ間違いないね。多分、この向こう」
　アレンさんの太い指が真っ直ぐ壁の向こうを指差す。
「ちょうど反対側にこれと同じ基準石があるはずだよ。普通、基準石は道の両側に対になって設置されるんだ。そして等間隔で次の基準石が埋め込まれていくから…」
「こっちっす。こっちの路地から向こうへ出れますから、確かめてみましょう」
　ラン君が示したのはそれこそ人が一人通れるか…ってほどの狭い狭い路地。建物のすきまと言ったらいいんだろうか…たしかにこっちの細い路地とは普通に繋がっているし、個人のお宅の一部です…とかそんな感じもない、本当にただの路地みたいなんで通っても問題はないと思う。思うのだけれど。
　…両手あげたまんまで体横にしないと通れない路地ってのも。しかもなんか植物の葉っぱなんかが体に触れてきてむずがゆいんですが。ゲルンタージュだと家々の軒先や庭先にはマルグリットの可憐な花やイマキナの青い花なんかが植わっててきれいに咲いてたりするんだけど…カラドリアは軒先にそういう花があったりすることが、まずない。代わりと言っちゃなんだけど、こうやってちょっと隠れた小庭の地面でリリタフの細くて鋭くて緑の深い葉っぱが揺れてたり、二階の鉢植えでビオラッテの鮮明で様々色の混じり合った花がいくつもいくつも咲き乱れてたりする。ゲルンタージュよりも狭い家が多いのかな…？　庭が小さいとか。その辺は分からないけど、細かい三角形じゃない丸くもない葉っぱがたくさんあって…。そりゃあ、まあ、別に絡みついてくるわけでもないんですが…なんだかなあ、これ
「ミラブリスだね…こういうところにはよくあるんだ。タネをつぶすと白い粉が出てくるんだよ」
　でも今はその実がないんで試しようもない。花期も過ぎたんだろうか…細長い「ろうと」みたいな赤い花が咲くらしいんだけど、それを見ることもできない。

　そういう草むらじゃないけど植物の中を抜けると、たしかにちょっと広い道に出る。路地…じゃあないね。これは道路なんだろう、ひっきりなしってわけじゃないけど馬車も通ってるし。何より石畳が…なんだか懐かしい気がするのは気のせいだろうか？　ゲルンタージュの町中のではなくて、ハイドシュタインからカラドリアへ来る時のゲマ街道がこんな感じ…とはちょっと違うかな。ゲマ街道は基本的に石畳で覆われてるんだけど、それでもここまできっちり覆われてはいない。
　でも…なんだか感じは似てるんだよな。
「あ…これっすかね？」
　ラン君が指した先にはさっきのと似たような小さな石が、ちょこん、と顔を出している。
「これだね。…て…ことは…」
　アレンさんがさっきあった辺りを指して…。
「やっぱりここからあそこまで幅があったんだね。でも今はほとんどが家の下になってるんだね」
　今の道幅は馬車が一台通れるくらい。街道は町の外へ出てしまえば幅は一定しないけど、ここまで細いってことはない。で、家が建ってる辺りを加えてみると…余裕を持って二台すれ違えるくらいになるのかな。それくらいならここへ来る間にだってありそうな幅になる。
「へええ…私、知りませんでした…」
　小手をかざしてあちこち見ているシャーマニーさん。