TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[4-34]

　ゲルンタージュは…どうなんだろうな、とやっぱり考えてしまう。ゲマ街道だって完全に死んでるわけじゃないからあちこちから物資は流れ込んで来る。だけど…なんて言うのかな、カラドリアみたいに流れ込んできたモノを上手に使いこなしてないって言うか。もっときちんと何かのために役立てるようなやり方ってのが…あるんじゃないだろうか？　今のままのゲルンタージュじゃ何も変わらないんじゃないのかな…？
　と、そんなことを考えていたのだけれど。
「へへ。どうだ、ちったあカラドリアのすごさってもんが分かったかよ？」
　おお…ラン君が復活してる。クラッカーにジャムをこれでもかってくらいべっとり塗って、遠慮も何もなく口に放り込む。ジャムがぼたぼた垂れてきてるけど気にする様子もない。…ああ、そのお茶だってすごいもんなのに…あ、あー…そんながぶがぶ飲まなくても…。
「ごめんなさいね、マルティン君。…このバカにはまだ早かったかしら、こういうとこ」
「なんで？　うめえじゃねえか、このお茶。お代わり頼んでもいいか？　姉貴？」
「好きになさいな。まったく…はあ」
　シャーマニーさん、気持ちはよく分かります。…はあ。

　一方でアレンさんは最初に来たセルリシアのお茶と、後から来たピンターニャのお茶、両方を比べるように飲んでいる。
「いいお茶ですね」
　ほう、とため息つきながらクラッカーをかじる。
「でも以前にボクが飲んだことのあるお茶とはちょっと違うかな…あれは絶品だった」
「どこで飲んだんですか？」
「イルトンランドの…どこだったかな。バズハイムともオレイアとも違う国でね。やっぱりお茶が有名なんだけど飲み方からして違うんだ。こっちではこうやって大きなポットに茶の素になる葉や茎を入れてお湯を注ぐのが一般的なんだけど、これっくらいの小さなポットを使うんだね」
　両手の親指同士、人差し指同士を突き合せて円を作って見せてくれるんだけど、爪の辺りは重なってるんだよね。だからそれくらいの円って言ったら…たしかに小さい。だって目の前にあるポットなんか胴回りを両手ですっぽり包んでみても、人差し指と親指の先がようやくくっつくくらいなんだから。
「高さもこんなに高くないね。これくらいだったかな」
　人差し指と親指で示してくれる。それでもボクの人差し指の長さと同じくらいだろうか。目の前のは立てたてのひらよりも高いから、それと比べるとまるで子供のオモチャみたいにも見えてしまう。
「使うお茶ももちろん厳選されたものだったけど…お湯の温度を変えることによって淹れ方を繊細に変えていくんだ。一杯目と二杯目で味や香りが全然違っていてね…三杯目も全然違ってたなあ…」
　うっとりとした表情。すごく美味しかったんだろうなあ、そのお茶。一度飲んでみたいもんだ。
「このお茶も美味しいけどね。あれは、またちょっと違ったすごさがあったね」

　しばらくお茶を飲んでクラッカー食べてたんだけど、そろそろ行こうか、ということになった。
「さ。もうすぐ本店だからね。期待しててね」
　先頭を大股に歩くシャーマニーさんはそう言ってくれるんだけど、一体どんな店なんだろ？　辺りはカラドリアの一等地というだけあってやっぱりさっきのお店みたいにオシャレで洗練された店が続いてて…こういうのばっかりなのかな、と思ってたんだけど…。
　突然、目に何か…何て言ったらいんだろ、ものすごく懐かしい物が飛び込んできたんだ。初めて来た場所のはずなのに。見たことあるものなんかあるはずもないのに。…それは、なんだか、とっても…。
「お、おいマルティン？」
　ボクがずっと見たかったモノはこれだったんじゃないのか。
　そう思うと自然と涙があふれてきてしまって…。
「どうしたの？　何かあったの？　ねえ？」
「おやおや、どうしたんだい？」

　そこにあったのはいびつなボールが三つ…いや、うっすらと顔みたいのが見える。人間って感じじゃないからサルなのかな？　それが三つ縦に並んで串刺しになってるような彫刻。こう説明するとなんだかグロテスクに思えるかも知れないけど、実際に見てみたら結構ユーモラスな印象を受ける、そんな彫刻。
『サルみたいなボールみたいな串焼きみたいな彫刻がある家のことだね』
　マリアやアレンさんが言ってたのってこれのこと…？　これって…これは…ゲルンタージュのものだ。間違いない。こんな彫刻だったらゲルンタージュのどこにあってもおかしくない。たしか…メモリオ通りをちょっと入った路地にこれとよく似た顔の彫刻がある。あの辺には他にも似たようなのがあるから何か関係があるのかも知れない。