TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[4-36]

　だから薬店、とか書店とか。そういう店なら大抵は薄暗いと相場が決まってるんだけど。
　でもここはとっても明るく感じる。まさかミナハ薬店のそれも本店ともあろう場所がそういうことに気をつけてないはずはない、と思うんだけど…。
　あれ…でもこれ、太陽の光が直接入ってきてるわけじゃ…。
「おやおや？　窓の設置方法が独特だね。こういうのは僕の知ってる限りではセントレランドにもないね」
　ボクの考えていることが分かったんだろうか。アレンさんが小手をかざして上を見ている。
「直射日光を避けているんだ。見てごらん。ここは一階と言ってもすぐ上にあるべき二階部分がないよね？」
　あ…たしかに。そのままのっぺりと天井になってるわけじゃないんだ。…吹き抜け、というのとは少し違うような気がするけど…何だろう、いくつか大きな穴みたいなのが開いてる。
「多分二階部分はこの建物の半分くらいしかないんだろうね。その二階の真下は倉庫にでもなってるんじゃないのかな。光が差さないからうってつけだね」
　なるほど…窓をただ天窓みたいにつけてあるわけじゃないんだ。白い壁で光をさえぎったりはね返すような作りになってるんだ…ここの天井。だから天井は明るいけど空は見えない。もちろん天窓から直接日の光を取り込んだ方が明るいに決まっている。でもこの方法でも普通にランプ灯したりするよりははるかに明るい。
「完全に日光を防げるわけじゃないね。でもよく考えてあって、こういう場所ではかなり有効な手段だと思うよ、僕は」
　アレンさんの感心したような言葉にうなずいてしまうボクだった。たしかによく考えたもんだよなあ…。

　それからシャーマニーさんに本店店長のヤロミーラさんに引き合わせてもらった。今はちょうど手の空いたところなの、これがもうちょっと早かったら忙しくてとてもお相手なんかできなかったわ…とにこやかに笑ってくれる。なんか怖そうな人じゃないのかな、とか思ってたからホっとしたものだった。何せラン君はまともに目を合わせようともしなかったし。…苦手と言うより怖がってる様子なんだ。当のヤロミーラさんはそんなラン君を見てもやはり柔らかい笑みを浮かべるだけ。そんなに避けること、ないと思うんだけどな…。
「シュトーレンさんは、どう？　このお店を見て何か感じるところはあった？」
「そうですね…店の中がとても明るいですね。こういうお店は初めて見ました」
　さっきアレンさんと見てたところだ。
「ああ…あの天井ね。あれはジェイスン社長が仕入れてきたものなの。…ご存知？　ジェイスン社長？　カラドリアでは貴族でいらっしゃるのよ」
「あ、はい…ジェレミー・ジェイスンさん」
　知りすぎるほど知ってますが。でもさすがにそんなことまで話すわけにはいかないか。…そっか、考えてみたらここってジェレミーさんの『青の旅団』とかと関係してたんだよな。店長のヤロミーラさんなら面識があって当然だよなあ…。
「これくらいならセントレランド辺りでは普通じゃないでしょうかね。あちらは寒くなる冬場に太陽光を取り入れたがる傾向にありますから。恐らくあっちの方で仕入れたんでしょうね」
　って、アレンさん？　さっきと言ってることが違うような…って、うわ、ものすごく不機嫌そうだ…ジェレミーさんが好きじゃないんだなあ…やっぱり。

　その後副店長のクレイグさん、店長格のグロリアナさん、と順に紹介してもらった。大柄な男の人と小柄な女の人で、体格は大分違うけど、よく似てるなあ、兄妹なのかな、と思ったら双子なんだそうだ。握手とか話し始めるタイミングが全く一緒なんで、その辺も納得してしまった。…さらにお二人はミナハの一族とはゆかりがないんだって。完全に一族経営ってわけじゃないのよ、とシャーマニーさんが説明してくれた。こういうミナハ以外の人も結構な数働いているんだそうだ。
　そして…もう一人。
「ビーチェ？　ビーチェはいないかしら？」
　ヤロミーラさんが奥に向かって呼ぶと、転がるように飛び出てきた女の人…女の子が一人。…実際頭から転びそうになって、両手を大きく振り回しながらなんとか踏みとどまっていたりする。
「はいです、はいです、ビーチェはここにいますです。何か御用ですか？」
「シュトーレンさん、こちらはビーチェ。ベアトリーチェ・トリクシー・ミルチアーノ。名前の通りこの子もミナハの出ではないのよ。ビーチェ、こちらはマルティン・シュトーレンさん。ゲルンタージュからおいでで、あちらに薬協支部を作ろうとなさっているの」
「それはそれはすごいです、初めましてです、シュトーレン様。ビーチェのことはビーチェと呼んで頂けると嬉しいです」
「あ、はい。こちらこそ初めまして…」
　あの、手が痛い…すごく力いっぱい握ってきて、満面の笑顔で思い切りぶんぶん振り回してきて…元気な人だなあ。

「それで…シュトーレンさん、実はお願いがあるのですけれど」
「なんでしょう？」
「このビーチェをゲルンタージュに連れて行って、そちらのお手伝いをさせて頂けないでしょうか…？」