TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[4-37]

　…って…はい？

「えっと…」
「この子はルートセラーの資格も持っています。でもまだまだ駆け出しで…だから薬協支部のこともゲマ街道のことも知ってもらいたいのです」
　あらかじめ話はしてあったんだろうか。ビーチェさんは真剣な眼差しで何度も何度もうなずいている。
「それにこの子にもっともっと他の世界を見せてあげたいのです。…いかがでしょうか…？」
　他の世界。それは…たしかに。ボクだって全然知らないことだらけだ。
　アレンさんを見てみると…「別にいいんじゃない？」といつものようにあっけらかん、とした返事。まあ、たしかに問題ないと言えば問題ないんだけど…。
「分かりました。ボクでよければお預かりします」
「そうして頂けると助かりますわ」
「よろしくお願いいたしますです、シュトーレン様」
　と、まるで頭が床につくんじゃないか、ってなくらい大きくおじぎ。…シュトーレン『様』ってのはなあ、なんか恥ずかしいなあ…とか思ったんでそれはやめてくれないか、と言ったら
「分かりましたです、マルティン様」
　とやはり真剣な顔で返してきたのでそれ以上はいいや、ってことにしたんだ。

　ビーチェのこともあるのでちょっとお話しましょうか、とヤロミーラさんが奥の方へ誘ってくれる。二階の会議室とかそういう場所ではなく一階『関係者以外立ち入り禁止』の扉の奥。さっきビーチェさんが転がり出てきたところだ。普段は従業員さんたちの控え室になっているんだそうだ。でも、さすが本店だけあって控え室とは別にいくつか部屋もある。その中の一つ、廊下を進んだ先にある『来客室』という部屋を扉をヤロミーラさんが開けた。
　どういうお話なのかな、と思いながらついてきたんだけど…誰かをこうして仲間に入れるためには、いくつかやっておかないといけないことがあるってことなんだよ、と一緒についてきたアレンさんが言ってくれる。
「ええ。一応あの子は出向という扱いになりますので。例えばお給金のお話とか…もちろんこちらからゲルンタージュへ送金はいたしますけど送り先の確認もしておきたいのです」
　まあ、座ってください、と椅子をすすめられる。それほど豪華ってわけじゃないけど使い込まれてるなー…と感じさせてくれる木の椅子。テーブルは大きな一枚板をつるつるに磨き上げて加工してある。うちの宿屋のようにテーブルクロスをかけてしまうと書類なんかに書き込みしにくくなるからなんだろうか。普段使いらしいけどそれでも涼しい香りの茶が三つ、そのテーブルに並んだ。

　…まあ、そんなに大したことを話してたわけじゃないんだけどね。
　うちの住所の確認。薬協支部の住所のことも聞かれたけど、まだ決まってないから答えようもなかったし。薬協支部をどういう方向へ進ませたいのですか？　といった話も出たけど…ボクはあんまりそういうのがないんだ。アレンさんがさすがに上手に答えてくれたんで、なんとか切り抜けたと言うか何と言うか。こういうとこだと、ホント、ボクは何もできないんだな、と思ってしまう。
「どうしてゲルンタージュに薬協支部を作ろう、と思ったのです？」
「その、えと…特にはないんですけど…ボクの生まれた町ですし」
「それでも何か一つ、というのはあるのではないですか？」
「マルティン君の郷土愛の強さの現れ、と思って頂ければよろしいかと思いますよ。彼のゲルンタージュへの愛情はなみなみならぬものがありますから」
「まあ、そうなんですか…」
　と、こんな感じで。…やっぱりこういうのは年齢とか経験とかそういうのがモノを言うのかなあ…それともボクにはもともと無理なことなのかも知れない。こういう風に落ち着いて話す、というのは。

　そうそう、年齢と言えば。
　ようやくと言うかなんだかかなり疲れたような気がするんだけど、実際はそれほど時間は経ってないようだったんだけど…ヤロミーラさんとアレンさんと一緒に店の方へ戻ってきてみると、ラン君とビーチェさんが何か話してる。シャーマニーさんも一緒にいるんだけど…話してるって雰囲気じゃないな、ありゃ。
「おーおー、少しは背が伸びたのか、チビ助」
「ビーチェはチビじゃないです、相変わらず失礼な人です、プンプンです」
「ガキっぽいのは変わってねえなあ…お、マルティンが戻ってきやがった」
　ビーチェさんの振り回してる腕が、ラン君に額に指一本当てられたら届かないって言う…なんだかあり得なさそうな場面なんだけど本当に届いてない辺りがなあ…。
「…何やってんだか…」
　シャーマニーさん、見てないで止めてあげてくださいよ。そんなに腹抱えて爆笑してないで。当人、ギャグのつもりじゃないみたいですよ。
「だって、だってさあ…これでこの二人同級生だってんだから。こりゃ、笑えるってもんよ」

　マジ…すか？