TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[4-38]

「しかもお互いによく知ってるってやつだ。カラドリアは初等学校と中等学校は一つしかねえからな。その分クラスは多いんだけどもなぜか、ずっと同じクラスだったんだぜ。腐れ縁だあな」
「腐れ縁？　腐ってるのはそっちの方ですです。ビーチェは高等学校行ってないですけど、とっても心外なんですビーチェにとって。…こんな乱暴で無神経な人と一緒だったとか思うとぞっとしますです」
　えっと…それって…まさか…。
「ああ。マリアの野郎も同じだったんだぜ？」
「おろ…ローガンさんともお知り合いなんですかマルティン様？」
「知ってる、と言うか、まあ…仲間と言うか。マリアもルートセラーだし」
「え？　え？　え？　じゃ、じゃあ、ローガンさんとも会えるですか？」
「今はちょっと無理だけどね。そのうち…」
　と、なぜかシャーマニーさんが軽くぽんぽんと手を叩いてみせる。
「はいはい、マルティン君、その辺はまだいいでしょ。ね？」
「大人の事情ってやつだからな。チビ助もその辺は突っ込むな」
　いや、そこまで気にしなくてもな…意味ありげにシャーマニーさんと視線交わしたりしてるけど…別になあ、ボクとマリアはそんなんじゃないし。
「何です、何です？　何があったですか？」
「ふふふ。男と男の話ってやつだ。気にすんな」
「なんなんですかそれ？　なんかやらしいことじゃないですか？　…シャーマニー様、何でまた笑ってるですか、ビーチェ、何かおかしいことしてるですか？」
　いや、シャーマニーさんは苦笑してるんで、さっきみたいに何か面白いことがあって笑ってるわけじゃないと思うんだけど。
　とまあ…なんだか騒々しくなってしまったんだけど。お客さんも少ない時間帯なのかヤロミーラさんも笑ってるから、まあ、いいんだろうか…とか思ってしまう。

　…実はマリアのこともそうなんだけど…ボクとラン君とマリアは高等学校卒業したばかりで同級生。ビーチェさんも同級生。てことは…あのナスターシャとこのビーチェさんが同い年ってことになるのか…？　なんか…人生の奥深さを見たって言うか、そこまで深いもんじゃないんだろうけど…。

　改めて店の中を見てみると、薬店としてだけじゃなくてここは薬協支部でもあるんだな、と思わせてくれる重要な物もある。そう、ここには専用のカウンターがあって大きな掲示板もある。そこにはたくさんのメモが貼り付けてあってやっぱり薬協支部なんだな、と思わせてくれる。今は誰もルートセラーはいないみたいだけど、時間が合えば結構な人が来るんじゃないだろうか。

　実はミナハの本店まで来たのはミナハ薬店を見てみたい、というのもあったんだけどさらにカラドリア薬協を見てみたい、というのもボクの中では密かな目的だったんだ。何せ、ボクはハイドシュタインのフレデリクさんしか薬協の管理人という人には会ったことがない。だからぜひともここの責任者のジェームズさんに会って色々聞いてみたかったんだけど…ここにはいないみたいなんだ。どこかに出かけているんだろうか？
　そう聞いてみると、ヤロミーラさんは副店長のクレイグさん…店長格で双子のグロリアナさんはお店の方があるのでここにはいない…と顔を見合わせて、やや、顔を曇らせてしまう。
「それがねえ…ちょっと前からお休みされてるんですよ。だから一時代行ということで私が臨時の責任者をやってますの」
　クレイグさんがその大きな体をねじこむようにカウンターの下から白い腕章のようなものと紙切れ一枚、取り出して見せてくれる。
「何らかの事情で責任者が薬協の業務を遂行できなくなった場合、一時的に責任者が認めた人物に業務を委託することができる…んだそうです。月銀貨一枚の徴収と掲示板の管理くらいなもので、新規に承諾書を受理したりタブレットの発行なんかはできないらしいんですがね」
　紙切れにはそういったことがびっしりと書かれてあるらしい。アレンさんも初めて見るものらしく「へー」とか「ほほう」とかうなずきながら見入っていたりする。たしかに…何かの不測の事態とか。そういうのだって起こり得るもんなあ…一人でずっとやってく、ってのも大変なことだろうし。できれば二人くらいいた方がいいものなのかも知れない、こういうのは。
　腕章の方は実際にヤロミーラさんが薬協業務を代行する時に着ける決まりになっているらしい。実はまだ一回も着けたことはないのだけれど、とちょっと困惑した表情で笑っていた。
「でも、一体何があったんです？　休むなんてめったにないんじゃないですか？」
「実は倒れてしまったんですよ。…三日くらい前かしら？　ねえ、クレイグさん？」
　重々しくうなずいて見せるクレイグさん。
「ええ。あの日もジェームズさんは早くからここに来ていました。自分も早番だったので店の前を掃除していたのですが、まるで幽霊のような足取りで自分のすぐ横を通り過ぎていくんです。いつも挨拶を欠かさない丁寧な人なので、気になって声をかけてみたらあわてた様子で何度も何度も謝っておられました…つい、うっかりしていたんだ、すまない、すまない、と何度も」

「どうも顔色も良くなかったんです。青色というより白色といった様子で。それが店を開けてすぐだったでしょうか…グロリアナの悲鳴が聞こえて。行ってみるとカウンターにつっぷして動かなかったんです」