TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[4-41]

「何よ、これ…」
　皆が絶句したのも無理はない。だって、そこにはどこかで見たことあるような神経質な細かい文字が並んでいたんだから。
『カラドリア薬協支部管理者解任の件、了承しました。今までありがとうございました。後任の方を推す場合はお早めに。　　　薬協本部』
「いつ来たのかしら…？」
「人間かよ、こいつ…」
　色んな意味でみんな冷や汗を流したものだった。
「なんか、らしいと言えばらしいよね。こないだの保留のもそうだったけど」
　…まあ…たしかにそうですけど…。

　しかし…薬協って…どんな組織なんだ…一体。本部の人って…本当に人間じゃないのかも知れない…。

「うわ…なんかすごいな」
　とりあえずその手紙持って本店へ戻ってみると…ちょうどジェレミーさんから連絡があったとかでヤロミーラさんもクレイグさんも、グロリアナさんも大慌てのてんてこまい状態になってた。あちこちへ飛び交う指示の鋭い声と走り回る店員さんたち。ビーチェもその中にいて走り回ってるけど…あ、コケた。お客さんが全然いないのは閉店したからなんだろうか。表のドアには「閉店」の札が下がっていて、シャーマニーさんの顔パス？で中に入れたのだけど。時間的には当然早い。
　店の中に入れた、と言ってもはっきり言ってボクらじゃまだよな…店の隅の壁の方へ押しやられるように並んでるしかないボクら四人。だけどシャーマニーさんはやることがあるから手伝いなさい、ってヤロミーラさんに連れ去られてしまった。
　要するに薬協支部の業務をどうするか、ってことらしいんだけど。簡単にいくことじゃない。しかも突然のことだったんだし。しばらくは本店が業務代行とかするんだろうか。でもそうなると色々抱え込むことになっちゃって薬店の業務だけやってればいい、という状態じゃではなくなってしまう、か…。
「本店だって人手が余ってるってわけじゃありませんからねえ」
「そりゃ、そうでしょうけど…って、エイミーさん？」
「はーい、久方ぶりです。ホントは所長が来るんですけどね、こういう場合。でもまだ足が悪いんであたしが来ちゃいました」
　ジェレミーさんの連絡を手紙として持ってきたのはあのエイミーさん。笑顔でわにわにと片手を握ったり開いたりしてみせる。
「なんか収穫はありました？」
「いや…収穫と言うか何と言うか」
　収穫って言うのかなんなんだか。
「ふふん。実はあたしは今、こんなの持ってるんですよ」
　っと、こっちも封筒に入った…手紙？
「所長からマルティンさんへです。欲しいですか？」
「そりゃあ…まあ」
「じゃじゃーん。それでは所長からのラブレターを贈呈しまーす」
　て、何、ら、ラブレターって…何？　ラン君やアレンさんまで身を乗りだして、って…何？

　……。

　…開けてみると別にそんなんじゃなかった。
　例の宝石の件、あれからナスターシャが独自に調べなおしてくれたらしい。ゲルンタージュの南の石切り場と言うか石の集積所。大きな石がごろごろしてるだけの場所なんだけど…そこでそういう「何か」が見つかったことはなかったのか、噂話でもいいから何か手がかりはなかったのか…と。カラドリアでゲルンタージュのことを調べるのってかなり大変そうなんだけど、しかもナスターシャは今足を悪くしてるからなおさら…。
「その辺はあたしとレイミーでサポートしたんですよ」
　なるほど。そういうことですか…しかし…それでも噂っぽいのは残ってるらしい、というレベルなんだよなあ。いくつかそういう話を載せてくれてるんだけど。
　…おや。
　最後の一文…なんだろ。

『干草まみれのナスターシャからお手々すりむいたマルティン君へ』

　なんだっけ…何かあったかな…干草まみれって、ナスターシャは今と違って昔は結構やんちゃだったんだ。で、よくムカス小屋の干草に潜り込んで遊んでたから、だったと思うんだけど。でもボク…？　お手々すりむいたって…何だったけか？
　そっと手を見てみるけど、それっぽいケガなんか残ってない。そりゃあ…そうか。ナスターシャと遊んでたのって相当に小さい頃だったもんな。幼年学校とかそれくらいだったから、その頃のケガなんか残ってるわけがない。…じゃあ、なんでナスターシャはこんなこと書いてよこしたんだろうか…？
　…ってまあ、考えても仕方ないかな、こういうのは。でもなんかあったっけか…？