TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[4-43]

　思ってます？　も何も。
「あれは…だってボクのせい以外何物でもないでしょう？」
　それを聞くと、やっぱり、というようにうなずくエイミーさん。
「所長は『私のせいでマルティン君が』って言ってたんですよ、実は」
　…え？　えーと？　なんでナスターシャが？　別にあいつのせいってわけじゃ…。

　やっぱり話さないとダメかなあ、あのこと。ラン君もアレンさんも食事の手を止めて、じっとこっち見てるし。…仕方ない、覚悟、決めるか…。
「大分前のことなんですけど…幼年学校くらいのことでした、あれは」
　…昔、ナスターシャとはよく遊んでいたものだった。ナスターシャが『干草まみれ』なんでムカス小屋とかそういう場所が多かった。今は結構落ち着いて見えるけど…あの頃はそうでもなくよく干草の山崩して怒られていたものだった。ムカスは姉さんのとこみたいに個人で一頭だけ飼ってる場合も多いけど、近所の人たちみんなで何頭か共有して飼うことも多い。だから共同のムカス小屋というのもよくあってそれの一つでよく遊んでいたものだったんだけど…。
　あの日はいつもは先に来て待ってるナスターシャが来ていなかった。しばらく待っていると息を切らせて走って来て…。
「待ち合わせ場所はいつも決まってたのかな？」
「カティ通りにサザルム邸跡地、というのがあるんです。大きな広場なんですけどゲルンタージュによくある彫刻の類は残っていて、公園みたいになってて、待ち合わせにはよく使われますし…その辺りの人たち共同のムカス小屋もあるんです」
「…なるほど、そういうものなんだね。…すまない、続けてくれ」
　ナスターシャはなんだか妙に興奮していて、これから南の石切り場へ行こう、と言い出した。普段はあんまり行かない場所だし、たしか幼年学校生は親なしで入ってはいけません、とかそういうことを言われていたはずだった。だから…ちょっと気にはなったんだけど、結局は行くことになったんだ…。

　そこで、エイミーさんがちょっと首を傾げた。でも何も言わないで、そのままの姿勢でボクの話を聞き続ける。

　南の石切り場。と言うより石の集積所。昔々にゲマ街道が盛んだった頃に石を運んでいたことがあって、一旦ここに集めておいて砕いて運びやすくしてからさらに運んで行ったらしい。バズハイム王国にはいくつかこういう集積所があって、石の産地からこうやって運んできたものなんだとか。
　でもゲマ街道がさびれていくにつれて石がどんどん放置されるようになって…今のようにたくさんの大きな石がごろごろする場所になってしまった。
　ナスターシャは石切り場に着いてからもはしゃぎまくりであちこちのぞきこむように見て回っていた。なんでそんなに面白いんだろう、と思ったし、ボクはなんだか落ち着かないような、そんな気分だった。気分が悪いとかそういうのじゃなくて、心臓がやけにばくばく言ってるような。食べちゃいけないものを食べてしまって、なんだか胸の辺りに何か…水とか食べ物とか…そういう『何か』の塊が詰まってしまってどうにもならない…ような。あの時は朝ごはんだけでそれから何も食べてなかったはずだから、そう思うこと自体がどうにもおかしいはず…なんだけど…あの妙な感覚はそのものは覚えているんだけど、どこかぼんやりとしていて掴みどころもないような気がする。
　やっぱり入っちゃいけない、とかそういう場所だったからだと思うのだけれど…。
「その、入っていけない、ってのは…えと、幼年学校の担任の先生から聞いたんですか？」
「…多分、そうだと思いますけど」
「…分かりました…ごめんなさい、続けてください」

「そのうち高いところの石の割れ目に花が咲いてるのを見つけて…そこで…ナスターシャに『花、とってあげるよ』とか言ったんだ。まあ、それでカッコつけと言うかなんと言うか。のぼったはいいんだけど…落ちちゃってね。大したケガじゃないんだ、それで両手両足すりむいてケガしたって言う…まあ、そんな話なんだけど」
「今聞くと恥ずかしいとかそんなんでもねえんじゃねえの？」
　ニヤニヤしながらラン君。
　…まあ…たしかに。こうやって話してみるとなんでもない話だったんだな。うん。
「うん、それはそうなんだけどね。あの時はカッコ悪くてそのまま泣きながら家に帰っちゃったんだ」
「おいおい一人でか？　女置いてくとは…たしかに恥ずかしいやな」
「あ…たしかに。でもその後は特に何もなく二人で遊んでたはずだから、すぐに迎えに行ったんじゃないのかな？　ま、そういうことでボクのせいでボクがちょっとケガしたっていう…」

　でもエイミーさんの表情はそのまま明るくもない。アレンさんも何か考え込んでいるような様子。
「エイミー…さん？」
「…うーん…やっぱりあたし達が所長から聞いたのとところどころ違ってますね。…石切り場に行こうって言い出したのはマルティンさんって言ってましたよ？」