TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[5-1]

5:設立するのこと #2

　…と、まあ、すんなりうまくいけば良かったんだけどねえ…。

　行く手に見えてきたのはボクにはとってもお馴染みなんだけど、よそから来た人たちには大いに珍妙に見えるという…あの彫刻の数々。
　…本当のこと言うとここまで戻って来るのだってやっぱり簡単じゃあなかったんだけど。それでもボクもなんだか旅慣れて来たのか、ホッヘの泉で一泊したらなんとかここまでたどり着くことができるようになったんだ。…まあ…足がどこか痛いような気がするし、荷物が肩に食い込んで、肩もなんか痛いような気がするんだけど…ね。
　それでもボクなんかはあれ見ると『ああ…やっと帰ってきたんだ…』とそんな痛みもどっかに吹っ飛んで非常に深い感慨にふけったりしてしまう。いや、そりゃ…何ヶ月とかゲルンタージュを留守にしてた、とかそんなんじゃないんだけど。それでも懐かしさてのは変わらないもんだと思うんだけど…。
　それでも初めて見る人はやっぱりこういう反応するみたい。
「マルティン様、マルティン様。これ、おかしな形してます。やや、あっちにもこっちにも…こんな形のばかりあるですか？」

　あれからちょっとあったけどなんとかゲルンタージュに戻って来れた…ボクとアレンさん。そして戻ってきたわけじゃないけどビーチェも一緒だ。…一人足りないって？　マリアは、その…後から来ることになったんだ。…やっぱりそうすんなりとは行かないみたいだったんだ。
「ふわあ…ここがゲルンタージュですか…ビーチェ、とってもとってもびっくりです」
「カラドリアから出たことって…ないの？」
「はいです。ビーチェは初めてなんです初体験なんです」
　このビーチェにしても…すんなりと行きそうもないよなあ…。

　あれからラン君やエイミーさんが帰って行って。さあ、寝ようか、明日はハリーさんも来るし…と思ってベッドの支度をしていたらアレンさんが何気ない調子でこう言ったんだ。
「しかし…マルティン君もある意味大物だね。敵方の人間を簡単に迎え入れるとはね」
「え…それってエイミーさんのことですか？」
　まあ、上司がナスターシャだけどその上はあのジェレミーさんなわけだし。
「いや、あの人とナスターシャさんやレイミーさんはたしかに敵方ではあるんだけど、ちょっと雰囲気違うように思うんだ。それとは別で…ミナハの本店でのことだよ。店長のヤロミーラさんと色々話をしたと思うけど？」
「ええ…まあ」
　なぜゲルンタージュに薬協支部を作ろうと思ったのか、とか色々聞かれたっけ。
「あの人が尋ねてきたことって、あのジェレミー・ジェイスンが尋ねてきたのとほとんどかぶってたって…気づいてた？」

「え…？」
「それにビーチェ君のことも。明らかにこちらの内情を探る情報収集が目的だと思うけどね。敵方にそういう人間を潜り込ませるのは常套手段の一つではあるし。あんまり良い手段とは言えないから…あっちもそれだけ切羽詰ってるってことなのかも知れないね。他へ知られたらどんなバッシング受けても仕方ない手なんだし」
「…ええ…？」
「おやおや？　気づいてなかったのかい…？　まあ、君らしいと言えば君らしいけど」
　アレンさんはしょうがないな、というように首を振った。とは言っても呆れた表情じゃないのが救いと言えば救いなのかな…。
「気をつけた方がいい、ということさ。忘れちゃいけないよ、マルティン君。奴らは己のためならどんな手段でも使ってくる。そして躊躇もしない。これからどんな手を使われてくるか分かったもんじゃないんだからね…」

　そうは言っても。まさか今さらビーチェに来るなとも言えないでしょう…？
　ってそう言ったらアレンさんは笑ってこう言ってくれた。
「むしろ君は普通に接していたらいいと思うよ。ビーチェ君が個人的にどう思っているか、なんて分かりようもないんだしね。ただ、用心に越したことはない、ということさ。大丈夫、僕の方でも調べてみるから。いくつか防衛策を講じておこうと思っているんだ」
　と、やっぱり笑ってくれたんだけど…。

　それでも気にならないわけがない。そんな話聞かせられたらさらに気になっちまう。
「マルティン様。どうかしたですか？　カラドリア出てからずっとそんな調子ですけども？」
「いや、なんでもないよ」
「やっぱりローガンさんですか、ビーチェも残念でたまらないです…何年かぶりでお会いできるかと思っていたですが」
「…うん、まあね。後から来るってことだから…こっちで待っていよう。来た時に…会えるさ」
「そうです、待ちましょう、ビーチェは今から楽しみなのです」
　たたたっとボクやアレンさんより前へと駆け出して行ってしまう。…相変わらず元気いいよな、このコは。どうも、なんか、そういう裏っぽいこと企んでいるようには見えないんだけど。…でも分からないもんなあ、何があるか分からないってのはたしかなことなんだし。