TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[5-3]

　あー…そうだったんだ。期限まで、ええと…三日ってなとこかな？　カラドリアで五日くらい過ごしちゃったし…。
　まだ実家の宿屋に戻ってないから（今から戻るとこなんだけどね）アレなんだけど。帰ったら何か言われるかなあ、やっぱり宝石を見つけるのを最優先した方がいいか…ああ、そうだマリアのことも説明しないといけないし。ヘルガ義姉さんなんか特に気にしそうだしなあ…。
「やや。これはジェイスン社長のビラなのですね。コレはマルティン様にとって何か良くないことなのですか？」
「おやおや…ヤロミーラ店長から聞いてないのかい？　マルティン君の目的を？」
「聞いてるですゲルンタージュに薬協支部を設立なさるとか」
「じゃあ、コレがどういう意味を持つか分かると思うのだけど」
　ビーチェは壁のビラを指したアレンさんの顔を見て…ビラを穴が開きそうなくらい見て…今度はボクの顔を見て…軽く腕を組んでちょっと暗い空を見上げる。そしてやっと理解できたのか、ぽん、と手を打ち合わせる。
「あ。そう言えばジェイスン社長もゲルンタージュに薬協支部を作るとか何とか。…おおお？　と言うことはいわゆる一つの競合してるというやつでありますか、マルティン様？　それは大変ですです…」

　…今頃気づいたのか…これが地で天然なのか、それとも演技なのか分からないんだけど…大丈夫なのかな。

「ということはどういうことか分かるね？」
　アレンさんのまるで小さな子供に説明するような口調。まあ、たしかに背の高さだってボクの肩にも全然届かないくらいだし言ってることもやってることもとても同い年とは思えないし。…そういう接し方てのが一番合ってるかも、とか思ってしまうんですけども…。
「はいです、了解です。ビーチェはマルティン様のお手伝いをするためにゲルンタージュまで来たですから、全力でジェイスン社長の企みを阻止するです。はい」
　まるでどっかの警備隊の人たちがやるみたいに敬礼までして見せる。…あれ？　でもジェレミーさんの計画を阻止とか、そんなことできるんだろうか…？
「いやでも待ってくださいです。ジェイスン社長はカラドリアのミナハ薬店にとっては重要なお方なのです。そのお方のなさろうとしていることを阻止…いやでもビーチェは今、ゲルンタージュでマルティン様の…ああ、でもでもビーチェはカラドリアで生まれ育ったですからジェイスンの家の立派さも知ってるです。…そうヤロミーラ店長はこう言ったです『ビーチェや、ゲルンタージュへ行ってシュトーレンさんのお力になるのです、必ずですよ』と、あああああ、ということはやっぱりビーチェは…？？？」
　頭抱え込んでうずくまってしまう。…ほんとに大丈夫なのかな、このコ？
「そういう時はね、言われたことをきちんと整理してみるんだ。君はカラドリアでミナハ薬店にいた、そしてヤロミーラ店長の言いつけでここまで来たんだ。いいね？」
　アレンさんに言われて、ぐぐ…っと首だけ持ち上げてみせる。
「そしてそのミナハ薬店はジェレミー・ジェイスンと非常に深く関係している…ここまでは分かるかな？」
　今度は、かくっと人形みたいに首だけでうなずいてみせる。
「でもそれは君とは直接関係のないことだね。君が言われたのは『ゲルンタージュでマルティン君を助けなさい』ということだけだ。それもヤロミーラ店長から直々にね。…別にゲルンタージュでジェレミー・ジェイスンの手助けをしなさい、とは言われてないよね？」
　…ちょっと首を傾げて…でもやっぱり、かっくん、とうなずいてみせる。まだ地面についたままだったビーチェの手を取って、立ち上がらせてあげるアレンさん。
「じゃあ、そこまで深く考えることはないんじゃないかな？　君はここで全力でマルティン君の手助けをしてジェレミー・ジェイスンの野望を阻止する。それは別にヤロミーラ店長に逆らうことでもないし、カラドリアに対して悪いことをしてるわけでもない。僕はそう思うけどね」
　…なんかアレンさんの個人的な思惑が見え隠れしてるよーな気もするけど。でも当のビーチェは目を大きく見開いて、ぽん、と握った右手で左手を叩いていたりする。
「おおおお…そうです、たしかにビーチェはジェイスン社長を助けるように、とは言われてないです。ヤロミーラ店長に言われたのはマルティン様を助けるように、ということだけですです。難しく考えたらダメなんですね、ビーチェ、とってもとっても勉強になったです…ありがとうございますアレン様」
　君の場合はもうちっと色々考えた方がいいのかも知れないけど…ま、いいか。なんだか吹っ切れたみたいな明るい表情になってるし。これはこれでいいんだろう、ということにしておこう。

「ところで…アレン様。アレン様は何かジェイスン社長に恨みでもあるですか？」
　え？　何を言い出すんだか…突然。
「いや、恨みってほどじゃないけどね。名前は知ってるってくらいかな」
「ふーむ…そうですか。ビーチェ、なんか、アレン様がジェイスン社長の名前を言う時にみょーに低い声になるのが気になったです。でも何でもないんですか？」
「うん。そう。何でもないよ」
「…そですか。ならビーチェも気にしないです」

　…一応このコもカラドリア育ちだもんなあ…ラン君やナスターシャに似て他人の感情を読むのが上手ってことなんだろうか。ちょっと、怖いなあ…ある意味。