TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[5-4]

　ゲマ街道はゲルンタージュを貫いているから、道なりに行けばゲルンタージュの中心街…ってそこまで立派でもないけど…に着くことができる。最も、ゲマ街道に並ぶゲルンタージュでも大きな道になるカティ通りでもそれは同じ。いくつか店や家が集まっている商店街と言うか住宅街と言うか…そういう「集まり」はあちこちで見ることができる。
　でもなー…カラドリアの中央通りとかハイドシュタインの商店街とか見てしまうと。ボクだって今までは普通にこういうバラバラに店が並んでるのは当たり前だ、とか思ってたんだけど。ああいう風に活気があって中央通りだとすき間なく店が並んでる状態を見てしまう、とねえ…こっちはやっぱりさびしいと言うかひなびてると言うか。そもそもの店や家の数が少ないから仕方ないんだろうけど…気になっちゃうところではあるよなあ…。
　今はゲマ街道からようやくゲルンタージュに入った辺りを三人、てくてくと歩いているんだけど。中へ入って行ったらビーチェはどう思うんだろうか？

　一歩一歩進んで行く。懐かしいゲルンタージュの景色、なんだけど…どこか何か違うような。そんなかけ違ったボタンのような違和感？も感じていたりするんだ、正直なとこ。…何だろう？　この感覚？　ここはああだったこうだった、とボクの中で築いてきてた景色が…その方がボクの中では『正しい』はずなんだけど…いざ見てみるとなんかどっか違うんだ。
　どんな風に違うんだ、もっときちんと説明してみろと言われても説明なんかできそうもない。何せボクだってよく分かんないのだから。こんな感覚は生まれて初めてのことだし…どこかしっくりこなくて気持ち悪い。なんだか前のボクとは違ったボクがゲルンタージュを歩いてるような気がする。…本当、なんなんだろう？　これは…？

　ゲルンタージュを貫いているゲマ街道はやがて例の石の集積所のある南の町外れまで行って、そこで町を出る。ゲルンタージュで二番目に大きいカティ通りは何度も何度もうねうねと曲がりくねってゲマ街道に絡みつく…。
　そうだ。一度あの石切り場にも行ってみないといけないな。
　ふと、そんなことを考えてしまった。あの時、あそこで意識をなくしてから一度もあそこには行ってない。やっぱり体が怖がっていたとかそういうものかも知れないのだけれど。思い出せないけどなんかイヤだな、とかそんな風に感じていたのかも知れない。けど…その辺のことはよく分からない、いや、覚えていない。と言うよりも考えたこともなかったなあ…あの石切り場に行こう、なんてこと自体。あの場所そのものを意識してなかった、と言うか…。
　先頭を歩いてるボクは、無意識にそこで曲がり角を曲がる。
　これでゲマ街道とは一旦おさらばだ。今入ったのはカティ通りへ抜ける細い裏道。…って、アレ？

「アレンさん。…まずはうちの宿屋で良かったんでしたっけ？」
「おやおや？　そのつもりじゃなかったのかい？」
「…えっと、まあ」
「ビーチェ、マルティン様のお家、見てみたいです」
「そりゃ、まあ…」
　そう言えばきちんとは考えてなかったな、まずゲルンタージュのどこに行くべきか、なんてこと。最初はうちの宿屋か…なんて漠然と思ってただけだし。
「じゃあ…まずはうちの宿屋行って、それから姉さんのとこ寄りますか」
「そうだね。このコの顔見せもあるし」
　うん。そうしよう。うちの宿屋はカティ通り沿いにある。この裏道を抜ければすぐにカティ通りだ。

　やっぱり空がちょっと暗い気もするんだけど…カラドリアと比べちまうのかな、やっぱり。それでもカティ通りは以前と変わらず静かにたたずんでいる…と思う。思うんだけどなー、なんか、前とは違ってるようなそんな気は抜けないんだな、これが。
　それでも歩いていくしかないわけで…さすがに人通りが全くないとかそんなことはなくて何人かが歩いている。顔見知りの人は今のとこいないな、なんかちょっと恥ずかしい気もするからその方がいいか、とか思ってたら
「あ…ジョン」
　あの無口なジョンが立ってる。なんか…すごい久しぶりなような気がする…。
　両手に袋持ってるから買い物だったのかな。ギルマン商会はカティ通りにもゲマ街道にも面していないからここにジョンがいるってことはやっぱりそうなんだろう。
「おはよう。なんか、久しぶりだね？」
　って、なぜ一歩下がる？
「おやおや…？　たしかにジョン君だね。おはよう」
「初めましてです、ビーチェと言いますですよろしくお願いしますです」
　アレンさんやビーチェ…まあ、このコは初対面だから仕方ないけど…の挨拶に、なぜか曖昧にうなずくだけのジョン。
「…どうかした…？」

　………

「あ、まあ…たしかにね」
「それで、ちょっと、気になってた」
　ジョンは例のビラのことを気にしていたらしい。ボクらが何も言わずに薬協支部のことで何か始めちゃった、とか思っていたらしいんだ。