TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[5-6]

　そう、思ってたんだけど。ギルマン商会の隣は…。

「うむうむうむうむ、マルティンボーイじゃないかね、こりゃ久方ぶりの登場だねい…ワタシもこんなに忙しくなかったらいつでもいつまでもお相手していられるのだがねい」
　って、なんで、ロバートさんがここで二回転してるんだ…？　それに…。
「依頼があった新築って・言う・のが、ここだったのさ」
　すでに空き地とかそんなんじゃない。枠組みが組み上がっててもうすでに建物みたいな状態のものが出来あがりつつある。たくさんの大工さんなんかが威勢よく働いてるんだけど。ゲルンタージュで新築物件なんかまずあり得ない。これまであった古い家を直しながら使っていくってのが普通なんだ。そりゃあ、こういう空き地に家が建つってことが全くないってわけじゃないんだろうけど、ボクは生まれてから一度もそういう話を聞いたことがない。
　てことは…まさか、ここがあの…。
「依頼はジェレミー・ジェイスン氏なのさ。カラドリアの貴族だって言ーうじゃないかーね。これは大きな大きな仕事になるんだ、ねえ？」
　大きな仕事。そりゃ、そうだ…。

　ジェレミーさんは今はこっちには来ていないらしい。まあ、時間的にも無理なんだけどね。いくらなんでもボクらがここへ戻る前にゲルンタージュに着く、なんてのは普通だったら不可能だろう。それでも最初の頃には数度（もしかしたらうちの宿屋に来た時もそうだったのかも知れない）来て、それからはお使いの人が頻繁に来るようになってるらしい。いつも決まった人が来るわけではなく、特にボクが知ってる人が来てるわけでもないらしい。
「ひっじょーに、ね。非常に細かい指示が来るのだよ、マルティンボーイ」
　額に指先を当てて困ったようなポーズ。いや、ほんとに困ってるのかどうかはちょっと分からないんだけど。
「それもカラドリアーのね、あっち独特のやり方、なのーさ。我々にもね、一応ゲルンタージュのやり方というものがあるんだけ・ど・ね。どうもそこいら辺が分かってらっしゃ・らないみたいでーね」
「…なんかやりそうだな、あの人なら」
「何か、何か言ったかね？　グレートマルティン？」
「いや、なんでもないんです」
　…あ。ビーチェの目が点になってる。アレンさんは多少慣れてるはずなんだけど、それでも言葉を失くしてるって言うか何と言うか…表情をどっかに置き忘れたみたいになってるのは前と一緒だったりする。
「えと、紹介します。このコはわけあってボクのお手伝いをしてくれることになったビーチェです。…こちらはこのジョンのお父さんでボクの古い知り合いでもあるロバート・ギルマンさん。さ、挨拶して？」

「あ・あ・あーのう、ビーチェは、えっと、ビーチェって言いますです。ベアトリーチェ・トリクシー・ミルチアーノって言うのが本名なのですですです」
　…思いっ切り混乱しとるな…別に取って食ったりしないのに…って、何やってんですか、ロバートさん…！
「はいはいはいはい！　いや、ご丁寧にどうもだ・ねえ。ワタシはロバート・ギルマン。この横にあるギルマン商会の経営者にして会長にしてこのジョンの父親なんだーねえ」
　と、こう言葉だけ見たら普通（いや、普通じゃないか…）なんだけど。当のロバートさんが「はいはい」のとこで派手に手を打ち鳴らし、その後のセリフは全部回転しながら言ったもんだからビーチェはさらに混乱の度合いを増してしまう。
「ビ・ビーチェですです、よ・よ・よろしくお願いしますですですですですう」
　頭を下げる相手、間違ってるってば。まだ半分くらい固まってるアレンさんに挨拶してどうする。

　…とまあこんないつもの状態のロバートさんなんだけど。こういうことやってても元空き地で作業してる大工さんたちは何も気に留めない様子なんだ。さすが、と言うか…慣れてるんだろうか。

「しかしマルティンボーイ？」
　あごに右手をやって、ちょっと首を傾げたポーズ。もちろん左手は胸の前で軽く組む。膝でも曲げてみせたら、なんか、カッコつけてるポーズの完成だな、とか思ってたら本当に軽く膝曲げてみせるし。ターンだとか踊ったりだとか、そいうのではなく最近はこういう系統の動きが好きなのかな…？
「もう一人の連れはどうしたーね？　たしかお嬢さーんが、いた、はずなのだけれど？」
「ああ。マリアはちょっとやることができたのでまだ戻ってきていないんです」
「やること？　ふむむむ？　そう言えばマルティンボーイはどこへ行っていたのかねえ？」
「カラドリアです。やっぱりやることがあって…まあ、用事は大体済みましたし」
　いや、済んでないかな。まだお金儲けの話はどうにもなっていないんだし…。