TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[5-9]

　なんかそれって悔しいな。別に勝ち負けとか勝負に負けたとかそんなんじゃなくて。

「じゃあ、俺らはどうしたらいいんだ？」
「適当に返事しておいていいと思いますよ。要望はないか？　と来たら要望は特にありません、と。こちらの事情を詳しく説明しても多分理解できないでしょうから、そこまでする必要もないでしょうし。ロバートさんも…」
「施主の注文好きってのはどこも・お・な・じ。だからそんなに気にはしてないーのだけどね」
　首をすくめてやれやれのポーズ。…こういうちょっとヘコんだ…ってほどもないかテンション低いって方が合ってるかな、そんなロバートさんを見るのは何年ぶりとかそういうレベルだ…。いつもテンション高めに踊っていたりするもんだし。
「やり方なんかいくつもあるものなんですから。これがいいあれがいいと決められるもんではありません。それぞれに合ったやり方でやって行けばいいんですよ」

　たしかに。あの人のことだから色々言ってきそうだけど全部が全部あっちに合わせるってこともないよなあ、うん。

　アレンさんの言葉にうなずいてみせるマティアスさん。
「まあ、俺らも気になっちまってよ。何せ何日かおきに来るもんだしなあ…」
「そう言えばこの手紙ってわざわざカラドリアから誰かが届けに来てるんですか？」
　ちょっと気になったんだけど…手間かかってるよな、こういうの。書く方も書く方だけど。下手したらほとんど毎日こういう同じような内容の手紙書いてるってことにならないか…？
「ああ。なんか使いだか社員だかって人が届けに来るぜ。ロバートさんのとこも同じようなもんだろ？」
「そう、そうなのねー」
　なんだか大人しそうに首をすくめていたりする。静かだ、静かすぎますよロバートさん。…うーん、なんか起きなきゃいいんだけど。ホント珍しいんだ、こういうの。

　とか思っていたら
「へ？　あの、誰かが持ってくるって何のことなのですか？」
　とビーチェが恐る恐る、といった様子で手紙の束に手を伸ばしていたりする。
「何のことも何も。カラドリアから手紙が来るっつったら誰かがカラドリアからここまで持ってこないといけねえじゃねえか」
　たしかにマティアスさんの言う通り。誰かが運ばないと届かないから、普通は知り合いの人がそっちへ行く時に預けたりするんだけどね。例えば他の町から共同購入で何かまとめて仕入れたりする時は、御用聞きの商人の人がいつも用件を聞いて回って、それから別の町の自分の店へと戻っていく。そこから注文された品を発送することになるんだけど、大抵は顔見知りの商人の人（御用聞きの時と同じ人の場合が多い）がまた戻ってくることが多くて配達された時にまた注文、とかそういうことも多いんだけど…？
「だから書いてそのままにしてたって勝手に届くとかそんなことはあり得ないだろ？」
　でもビーチェは曖昧にうなずきながら封筒を手に取る。
「あああ…証票も何もないです…宛て先も…ああああああ…番地も…ない…」
　何のことだろ。
「おやおや？　ビーチェ君はもしかして配達局のことを言ってるのかな？　それならあれはカラドリアとハイドシュタインと…バイパスで繋がってるいくつかの町の間のことで、ゲルンタージュとは関係ないものなんだよ」
　はいたつきょく？
「えええええ…そ、そうなんですか…ビーチェ、少しちょっと大分めちゃくちゃ驚いたですです…」
「何の話なんですか？　アレンさん？」
「あー…逆にマルティン君は配達局を知らないんだ…そっか、そうだよね…」

　アレンさんが説明してくれたところによると。
　カラドリアには『配達局』というのが存在しているらしい。これはカラドリア内にいくつかそういう受付事務所があって、そこへ持って行っていくらか払うと相手方に届けてくれるサービスらしい。…ビーチェが言ってた『証票』てのは『いくらいくら送料を払いましたよ』という証拠みたいなもんで、これを貼り付けておかないと届けてくれないらしい。それと、住所もきちんと記しておかないといけないらしい。ゲルンタージュみたいに『宿屋・大路地亭のマルティン』では届かないものらしい…。
　当然ながらマティアスさんも知らなかった。…ゲルンタージュに普通に住んでる人なら知らない方が当たり前だと思うけどな。便利な仕組みだとは思うけど、ゲルンタージュじゃそんなの必要ないっぽいし。だって、みんな知ってる人ばっかりだから手紙出すにしてもその人の家まで行って手渡しするか家族の人に預けるか…それともドアのすき間にでもはさんでおくか、そんなとこなんだし。遠くの人って言ってもやっぱり誰かそっちへ行く人に預けちまうのが普通なんだし。

　マティアスさんはなんだか納得いかない様子で何度も頭をかいたりしてる。ボクは…なんかカラドリアらしいな、と思ってしまったのだけど。でも便利は便利なんだろうな、そういうのがあると。