TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[5-10]

　それからマティアスさんとロバートさんに挨拶して、うちの宿屋に戻ることになったんだ。ロバートさん達にはメシでも食ってけと誘われたけど、そこまで甘えるのも何だし、丁重にお断りしたんだけどね。建物が出来たらまた来てくれ、とも言われたけど…どうしよう。ボクらが行ってもいいものなんだろうか。
　…ジョンは買い物からの帰りで、もちろんギルマン商会に戻らないといけない。そこでボクらも一緒に行ってマリーさんに挨拶したりしてたんだ。そんなこんなでおいとましたのは昼前くらいだろうか。ちょっと時間経っちゃったなあ…。
　ところで。ビーチェはなんだか熱にうかされたような感じで顔も赤い。
「色々しょうげきてきなことがありすぎるです…」
　と、ややお疲れ気味。なんか、こういうのはボクもカラドリア行った時もそうだったよなあ、とか思い出してしまう。

　さっきも通った細い道を戻るような形で今度こそカティ通りへと向かう。…ちょっと荷物がきつくなってきたかな。さっきの現場やギルマン商会ではさすがに下ろしていたんだけどこうやって担ぐとなるとやっぱり重い。アレンさんやビーチェは慣れたもので（ビーチェの場合は背負ってるカバンが小さい、ということもある）そんなに重そうじゃない。…さすがだ。
　カティ通りはゲルンタージュ二番目の通りってだけあってそれなりに人通りもある。そりゃ、カラドリアと比べると少ないけどね。ハイドシュタインと比べても…それでもあそこの目抜き通りほどもいないか…やっぱり人通りがあるとないとでは結構違って見えるもんなんだな、とか思ってしまう。
「よお、マルティン」
　天気もちょっと良くなってきたからか、知り合いの人たちと何度かすれ違ったりするようになってきた。
　でもこんな風に何人か道で声をかけてくるってのは、カラドリアでもハイドシュタインでもなかったような。向こうには知り合いなんてそんなにいないだろ、とか言われそうだけど。でも挨拶されてこっちが挨拶返すたんびにビーチェの目が丸くなるのが、なんとなく面白い。
「マルティン様はゲルンタージュでは有名人なのですか？」
「いや、別にそうでもないけど？」
　あ。そう考えるのか…。
「こっちではこういうのは当たり前だよ？　ビーチェも早いとこみんなに顔と名前を覚えてもらったらいいよ。そしたらみんなと挨拶できるようになるからね」
「はいです。ビーチェ、頑張るです」

　曲がり角の多いカティ通り。そのうちの一つを曲がって…ああ、見えてきた。
「ふう…やっと着いたね」
　アレンさんも安心したように一息。
「ここがマルティン様のおうちですか？　ふわああ、大きいです…！」
「そりゃ宿屋だからね。アレンさん、とりあえず一部屋ってことでいいですか？」
「そうだね、今日はそうさせてもらおうか…。そう言えば君のお兄さんが部屋を探してくれてるって話だったけど、あれはどうなったかなあ…？」
「ヨハン兄のことですからもう探してきてるかも知れませんよ。…そうだ、ビーチェのことも決めておかないと」
「ビーチェがどうかしたですか？」
「君の住む所も決めないとなあ、という話だよ」
　とかなんとか話しながら入り口へ。

　…あれ？　なんか人がたくさんいるような気がする…。
　普段はそんなに人がいるはずもないんだ。酒場もやってるからそっちで人が来る、というのはあるんだけどまだ昼前なのにそんなにたくさんのお客さんが来るはずもない。ま、それに来たとしても常連さんで顔見知りばかりだからたくさん、ってほどもないのだけど…玄関ホールかな。結構大人数が話しているような、そんな気配がする…？
　ドアを開けてみる。あ…なんで？
「遅かったな。みんな待ってたんだぞ」
「お帰りなさい。お茶の支度するからね。…あなた、エトヴァルトをお願い」
「あ…義姉さん、あたしが抱いとくわ。あーよちよち、おばちゃんでちゅよー…何ぼんやりしてんの？　早く入りなさいよ」
「ほほう？　なんかまた新顔が増えてるじゃないの？　やるなあ、我が弟よ」
　なんで…みんないるの？　無言でうなずいた父さんとハインツ兄と奥に行ったヘルガ義姉さんと…エトヴァルト抱いてるタミィ義姉と笑顔のヨハン兄と…。

「ほんと、何ぐずぐずしてんのよ。さっさと入ったら？　あんたの家なんでしょ？」
　この声は…？
「ア、アタシは別にあんたなんかどうでもいいんだから。ただ、ちょっと、来てみただけなんだから」