TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[5-11]

　………。

　あ。息が止まってた…。
「…なんで？」
　もっと気の利いたこと言えば良かったかな…。
「だ、だから…。ア、アタシは別にあんたに会いに来たわけじゃないの。ただ、ちょっと馬が空いてたから。普段だったらあんなの乗るわけないじゃない、揺れるし急かされるし。ランスさんがいなかったら別にアタシだってこんなとこまで来るつもりなんかなかったんだから…って、ちょっと？　聞いてんの？」
「ああ。聞いてる」
　…よく見回してみるとドアのそばに長身の男の人がいい姿勢で立っているのが見える。ハリーさんの執事のランスさんだ。こっちに気づいたのか丁寧なお辞儀をしてくれる。…そう言えばなんでみんなはこんなに集まってるんだろ…
「な・に・よそ見してんのよっ！」
　ぐぎっ…なんかヘンな音が首からしたような気がするぞ…大丈夫か？　ボク？
「別によそ見してるってわけじゃないけど」
「じゃあしっかりアタシの顔見なさい」
　両手で顔はさまれてぐいっと真っ直ぐ正面向かされるんだけど。
「…なんで横向いてんの？」
「………」
　当のマリアが顔真っ赤にしてこっちを見ないんだもんなあ。一体何やってんだ？　こいつは…？

　まあ、なんだかよく分からないうちに再会しちまったわけだけど。

　マリアはそれから異様なほど高いテンションで、なんだかロバートさんを思い出させるくらいなんだ。でもゲルンタージュに来ることができたってことはお父さんとの話がついたってことなのかな。でも…それだったらなんでランスさんが一緒に来てるんだろ。あの大きなキンバリーさんとはまだ一緒に来たりとかはできなかったのかな…？　どうなんだろ。今はそういう込み入ったこと聞いても話してくれそうもなさそうなんだ。
　あ…文字通りビーチェが振り回されてる。
　マリアは最初は誰だか分からなかったんだ。でも名前を言うと思いだしたみたいで、握手やらビーチェの頭抱え込んでみせたりと、そりゃあもうおおはしゃぎだったんだ。…今もビーチェの手を握ったまんまだし。だからああやって振り回される羽目になってるんだろうけど。身長差がそこそこあるからやっぱりマリアが振り回すような格好になってるんだけど…。
「兄さん」
　そんな様子を笑いながら見ているヨハン兄に声をかけてみる。長椅子に体あずけて思いっきりリラックスしてるのは相変わらずだ。
「一体どうしたの？　みんな集まっちゃって…マリアも？」
「ああ、それならお前の彼女が来たからに決まってるだろ」
　にかっ。…って、そんなさわやかな笑みで言わなくても。ついでに親指立てんでも。それにあいつは別に彼女とかそんなんじゃないってのにまったく…。

　と、気がつくとアレンさんが手招きしている。うちの宿屋の玄関ホールのわきにある小さなスペース。…そう、ここが父さんが貸してくれると言ってた場所なんだけど…何だろ。あそこはホールからだとちょっと見えにくい位置にあるんだけど、なんでアレンさんがあんなところに…？
　それでも誰かに気づかれるかな、大丈夫かな、とちょっとおっかなびっくりそろっとそっちまで移動してみる。…マリアがあのテンションで騒いでいるので気づかれなかったみたいだ。
「ちょっとお話があるそうだよ」
　アレンさんがさらに奥へと指す。そこにいたのは…ランスさんとハインツ兄？　なんだかコワイ取り合わせだな…二人とも背が高いしちょっと近寄りがたいって言うか何と言うか。
「まずはお疲れ様、と言っておこうか」
　ここは元々椅子も何もなくて、ただ窓があって…何だろ、くぼみ？　そんな感じの場所だったんだ。でも大き目の花瓶を置いて季節の花いっぱいにしておくとか、適当な置物を置いておくとか。そういう使い方をされていたんだ。四人いるとちょっと狭いかな…と思うけどそれは窓のそばには増設用の椅子なんかが布の下に隠してあったりするからで、そういう荷物を全部のけたら四人でもそう狭いとは感じないんじゃないかな。もちろん広いって感じるほどでもないんだろうけど。
「う、うん。ただいま」
　…よく考えてみたらハインツ兄に「お疲れ様」なんて挨拶、されたことないなあ…。
「マリアさんのことはこちらに聞いた。…厄介なことになってるな、お前」
　厄介？　何が…？