TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[5-12]

「それに関しましては私から説明させて頂きます」
　と…ランスさん。そっと見てみるとハインツ兄は困ってるようなちょっと笑ってるような、ヘンな表情。
「実はマリア様はローガンの家を飛び出してしまったのでございます」

　え。
「そのことはもちろんあっちも知ってるってことさ」
　アレンさんがやれやれ、という風に首を振ってみせる。じゃあ、あれって…。
「…家出？　ですか？」
「そういう言い方もできます。マリア様があるじハリー・レキシントンのもとにおいでになったのがあなた様がカラドリアを発った直後でした。それから屋敷の馬を駆ってゲルンタージュにまで来た、ということになります」
「覚えてるかな？　マリア君は以前うちはそれほど広くないって言ってたよね？　カラドリアでも馬小屋のあるお屋敷というとかなり限られるそうなんだ。レキシントン卿の屋敷はその一つなんだけど…ローガン卿の屋敷には馬なんかいないんだってさ」
　おいおいおい…ほんと、何やってんだ…。
「ダメです。ボクが今から連れ戻してきます」
　と、ホールへ戻ろうとしたんだけど
「待て待て待て待て」
　…なんでかそこで六本の腕に襟首やら袖やら掴まれて引き戻されてしまう。
「お前なあ…なぜあの子がここまで来たか、考えたことあるのか？」

「ハインツ兄…」
「前々から鈍感なやつだと思ってはいたがな。そりゃあ、お前、あんまりだろう。カラドリアからゲルンタージュまでどれくらいかかるかよく知ってるだろう？」
　そりゃあ、まあ。昨日までずっと歩いていたんだから。
「歩いてきたわけじゃない。馬で来たのはそれだけ早く着きたかったからだ。普通に歩いて行っても先を行くお前に追いつくのは時間がかかる。…違うか？」
「うん。そりゃ、そうだけど」
「その辺の気持ちは汲んでやれ、と言ってるんだ」
「じゃあ、じゃあ、兄さんはカラドリアのローガンの家の人たちのことは考えないの？」
　マリアのお父さんやお母さんだって心配してるはずなんだ。何せボクらが一方的に結婚をぶち壊してしまったんだから。
「きちんと話をつけないといけないんだ。こっちへ来るのはそれからなんだ。こんなこと続けてちゃいけないんだ」
「お前…」
「だから今からマリアをカラドリアにまで連れ戻してきます」
「いや…待て待て待て待て」
　…またそこで六本の腕に襟首やら袖やら掴まれて引き戻されてしまう。
「お前がそういうことやってたら薬協支部はどうなる？　例の競争相手はすぐそこまで来てるんだろ？」

　…そうだった…ジェレミーさんは着々と準備を進めているんだ…。建物だって造ってるんだしそろそろもっと大きな動きが出てきてもおかしくないんだ…。
「だから…そういうことは俺たちに任せろ。お前はこっちで薬協支部設立に専念しろ」

　えっと…なんか、今、なんか、とんでもないことを聞いたような…。
「こちらのランスさんにも承諾を得てる。馬も二頭あるしな。俺たちとランスさんで様子を見てきてやる。できたら話も聞いておきたいしな」
「え…え、なんでハインツ兄が？」
「決まってるだろ」
　何を言ってるんだ、という表情。
「俺はお前の兄で、お前は俺の弟なんだ。弟が頑張ってるのに兄が頑張らんでどうする？」
　え…いや、でも…。
「僕もさっきその話を聞いてね。ゲルンタージュじゃ馬を借りられるところはないから、ハイドシュタインまで行こうと思うんだ。あそこなら馬屋もあるからね。…荷物、頼めるかな？　帰ってきた時に部屋がない、てのはちょっと困るしね」
「本当にお手数かけます、このバカ弟のせいで」
「いやいやそんなことないですよ。大変に楽しい限りで」
「ではお二方は私が責任を持ってご案内いたしましょう」
「お願いしますよ、はっはっはっはっ」
「…アレン様は私の後ろにお乗りください。ハイドシュタインで馬を手に入れたら速度を上げられますし」
「そうですね。お願いします」
「馬ですか…久しぶりですなあ…」