TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[5-13]

　…って、なんで三人でそんなに盛り上がれるんだー…笑ってる場合なのかー。

　どうもマリアがはしゃいでる間にアレンさんがハインツ兄とランスさんから事情を聞きだしてしまっていたらしい。マリアがここまで家出してきたこと、そして…アレンさんがハインツ兄にカラドリアでのてん末までも話してしまったらしい。しかも。どうもなあ…ヘルガ義姉さんまですでに事情を知っているような、そんな感じなんだ。何せその後ハインツ兄たちとそっとホールへ戻る時に、明らかにこっちを見てるはずなのにわざと知らないような風に振舞っているような…。
　てことは…ヘルガ義姉さんからタミィ義姉に伝わるのは時間の問題だろうし。そこからヨハン兄へ、父さんへ伝わるのもすぐだろうし。下手するとメリッサ姉さん辺りにも速攻で伝わりそうだ…人の口にはなんとか、とか言うけどさ。こういう話って伝わるの早いんだよなあ…明日くらいにはゲルンタージュでもほとんどの人が知ってそうだ、マリアのこと。
　もちろん、このままこういうのをずるずる続けててもいいんだろうか？　とは思うしね。何かやらないといけないのは分かってるんだけど…いいんだろうか？　ハインツ兄たちに任せてしまっても？

　アレンさんは先にハイドシュタインまで行って、そこで馬を借りるんだそうだ（とんぼ返りと言うか何と言うか。特に何も言ってなかったけどこういうのも平気なのかな、大丈夫なのかな）。そして後から出るハインツ兄とランスさんを待つ…ってことになったらしい。だからここからも今すぐに出て…とか思ってたら何か父さんとひそひそと話していたりする。そして今度はハインツ兄、さらにランスさんともひそひそと。
　…ついつい気になってるから目で追ってるんだけど。ホールじゃマリアのはしゃぎっぷりが尋常じゃないとこまで来ている。だから目立たなくていいかなあ、とか思ってたんだけど。
「あー…疲れた」
　ホールにはいくつか椅子があって、ヨハン兄が腰掛けているような長椅子もいくつかあれば今、ボクが端で腰掛けている普通の椅子もある。どれもこれも重厚な彫刻はしてあるけどところどころ塗料がかすれてきたりして年代物なんだなあ、と思わせてくれる（時々ヘルガ義姉さんが修繕したりしているけど…完全には無理なんだって）。何せ父さんの父さん…つまりはボクのおじいちゃんの頃にホールの家具は全部新調したらしいんだ。
　その椅子にどさっと体重預けるように腰掛けてきたのは他でもない、マリア。ボクのすぐ隣だ。手には大きめのカップを持っている。多分井戸水を汲んできてもらったんだろう。
「そりゃ、疲れるだろうよ」
「まあね」
　ぐい…とカップをあおる。そして大きくて長いため息。満足そうなため息なんで、ちょっと安心したんだけど。

　…ビーチェはようやく解放された、ってとこなんだろうけど。何だか今度は料理を運ぶ手伝いをやらされているようで、タミィ義姉の手足みたいにくるくる動いている。このコも元気だよなあ…。

「…ごめんね」
　すぐ横から聞こえてきた言葉は小さかったけどしっかりと重みがあるものだった。
「何が」
　そっちを見てみる。マリアは椅子の背もたれに背中から体重を全部預けて胸を張るように、天井を見ている。…沈み込んでいる…ような顔には見えない。あえて無表情を作っているような、そんな顔。
「勝手にこっちに来ちゃって」
「…だめだ、って言っても来るんだろ？　どうせ」
「まあ…ね」
　マリアはこっちを見ていない。やっぱり天井を仰ぎ見ている。
「ここまで馬で来たんだって？」
「うん」
「ゲルンタージュに来る途中、ボクらを追い越したはずなんだけど」
「ホッヘの泉であんた達が寝てる時にね。…起こそうかと思ったんだけど、ランスさんが先に行って驚かせましょうって。ハイドシュタインでちょっと休憩してすぐに出てきたの。念のためフレデリクさんには口止めしておいたんだけど」
　そこでちらっとボクの顔を見て…すぐに上を向いてしまう。ちょっと恥ずかしそうに笑っていた、と思う。
「…いや、薬協支部には寄らなかったんだ。早めに着きたかったし」
「そう」
「うん」
　今、こいつはどんな顔をしているんだろう…ふと、そんなことを考えてしまった…。