TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[5-15]

「まあ、そんなとこじゃないだろうかと思ってたけど」
「…ほんとに？　びっくりしたりとかしないんだ？」
　すでにランスさんの話を聞いてるからなんだけどさ。
「だってなんだか不自然だったし。やけにテンション高いし」
「うん…不自然か…そうね、そんなもんよね…」
　すうっとうつむいて。…なんか、とんでもないこと言っちゃったかなー…とかそんな風に思えてきちゃったんだ。だって肩なんかがっくりと落ちちゃってるし、頭も深くうなだれてるって感じだし。
「…マリア？」
　手を伸ばそうとしたんだけど。…こいつ、いきなりがばっと頭跳ね上げてくるんだ。顔は笑ってるんだけど…何か決心したみたいに眉が寄ってるのがちょっと気になる。大体がよく分からないやつなんだけどさ。
「ね。ちょっと…出ない？　大丈夫でしょ？」

　ヘルガ義姉さん達は料理を切り分けたりするのに大忙しだし。セルゲイさんとビーチェは手伝っているし。ヨハン兄は相変わらず何かくだらないことしゃべってるみたいなんだけど、それを見てたタミィ義姉さんがほんとに耳を引っ張って無理やり手伝わせていたりするし。
　と言うわけで誰にも気づかれずに外へ出ることができたんだけど。

「どうしたらいいと思う？　アタシ？」
　ここは前にアレンさんやこいつと集まった井戸のある裏庭。あの時は朝だったけど居間は昼も過ぎているから、ちょっと違った風に見えるかも知れない。結構明るいんだ、ここ。朝だと建物やらが邪魔して陽射しはほとんど感じられないんだけど、今くらいの時間になると…さすがに太陽は上の方から照らしてくれるからねえ…すっぽりと裏庭に日の光を落としてくれるんだ。とは言っても夕方になればまたちょっと薄暗い感触に戻ってしまうのだけど。
「…どうしたらって言われてもなー…好きなようにしたらってのは？」
　…そもそもこいつがとんでもないことするからこういうことになってるんだけど。
「真面目に話して。アタシ…どうしよう…？」
　両方の手でボクの両方の腕を掴んでくる。肘のちょっと下あたり。爪も食い込んでくる。…痛い。振りほどくくらいじゃないけど…痛い。
「ボクは真面目だけど」
「アタシも真面目」
「じゃあ…言っちゃっていいかな？」
「うん」
「一度帰った方がいいと思う。お父さんやお母さんときっちり話してから…えと」
　掴んでた力が、ふ、と弱まったような気がする。…なんかイヤだな。ボクの方から掴み返してやろうか。
「戻っておいで。ゲルンタージュに。話がついたら、だけど」
「…アタシはどこに住んだらいいのかな？　ゲルンタージュで？」
「うちの宿屋でいいんじゃない？　空いてる部屋はいっぱいあるし。なんなら…」

　なんならボクの部屋の隣でも…。

　おいおい。いくらなんでもそれはヤバイだろ。

「なんなら、何？」
　にやー…っと、また変な笑み浮かべて見上げてきやがるんだ、こいつは。
「…なんでもない。とにかく…カラドリアで話つけて、みんなが納得してから戻ってきた方がいいとボクは思う。それだけ」
「うん。分かった。アタシ、一旦カラドリアに戻るね」
　素直にうなずく。珍しいな…。で、なんでボクの腕を掴んだまま離さない？　もう痛くはないけど…なんでだろ。
　ボクの方が少しだけだけど背が高いから見下ろすような形になる。んだけど…なぜかマリアの奴、目をつぶってるんだ。つまりはボクの顔を見上げながらあごを上げて、目をつぶって…。
「どした？　目にゴミでも入った？」
「……」
「ここ、ちょっとホコリっぽいかな。さ、一旦戻って…それからカラドリアに発った方がいいかな。何ならヘルガ義姉さんに頼んでお弁当でも作ってもらった方が…」

　ボクから手を離して、はあー…と大きなため息をつくマリア。
「いや、なんかさ…分かってたんだけどさ…あんたってそういう奴よね。分かってるのよ、分かってるんだけど…ああ、もう」

　え？　ボク、なんかヘンなことしたっけか…？