まあ、そういうわけで場所も確保できたんだけど。これでお金稼ぐ件はもういいのかな、と、カラドリアでアレンさんにもらった金貨を父さんに差し出したら「それはお前が持っておけ」って返されちゃった。…いいんだろうか？ それで？ ハインツ兄が帰ってきたらちょっと話をしてみようかと思ってる。前にマリアが言ってたようにカンタンじゃないんだ、こういうことは…というのが少しだけど分かったような気がする。…少しだけ、だけど。
でもそれとは別に、なんだか放ってはおけない気がして例の宝石を探してみようかな…という気にもなってきてる。
…今はアレンさんもマリアもいない。ボクがほんとにしっかりしないといけないんだし。そういう話があるんならそっちもきちっとしておきたいし。
ということで、ってほどでもないんだけど。ゲルンタージュでまだ「ただいま」の挨拶をしていないほぼ唯一の場所、メリッサ姉さんの店に行ってみることにしたんだ。…そういう風に話したらヘルガ義姉さんがなぜか張り切っちゃって「これと、これ…それからこれも持って行ってあげてね」と例の鹿肉のサンドウィッチからクイトからパンまで。結構な量になってしまった。紙袋で渡されたんだけど、これじゃ両手いっぱいいっぱいになっちゃうなあ…とか思ってたらタミィ義姉が「この藤カゴで持ってくといいわ」って今度は取っ手のしっかりとしたカゴを二つ、いや三つ持ち出してきて…。
一体ボクはどうしたらいいんだろう、とかなんか妙な気分になってきたんだけど。頼まれたんだから仕方ないから持って行くしかないわけなんだけど。あ、街道を行った時に使ったあの背負う形のバッグ、もしかしたらあれをまた使った方がいいんじゃ…。
いや、そこまではいいや。一日歩くってわけじゃないんだし。
「じゃ、ちょっと行ってきます」
「はい。気をつけてね」
夕方には少し早いかな、って時間。宿屋の門を出ると…
「ああー、もう、マルティン様、待ってくださいです、ビーチェも行くです！」
と後ろから転がるように…あ、こけた。しかも勢い余ってころころとほんとに転がって…そんな小さな影が一つ。
「…大丈夫かい？」
「ビーチェは大丈夫です無事です何ともないんです」
その言葉通り何ともないように立ち上がって軽くホコリをはたいたりしている。色んな意味で大丈夫なんだろうか…？
「お荷物、一つ持ちますです」
と、ボクの返事を待たずにカゴの一つを手にしてしまう。これで両手にカゴは一つずつってことで歩きやすくはなったんだけど。タミィ義姉が持ち出してきた籐カゴってのがこれがまた結構大きいんだな。ボクが両手を広げたくらい…ってまさかそんなに大きくはない。それでもボクの肩幅くらいは余裕にあるし。高さもそのまま腰かけるにはちょうどいいくらい。いや、これ実際に座っても別に問題ないんじゃ…？ とか思わせてしまうほどに頑丈な作りになってるんだ。
そんなのを三つ。右手に二つ、左手に一つ、とそんな状態で姉さんの店まで行こうとしてたボクって…？ やっぱり疲れって知らないうちにたまってくもんなのかも知れない。
「なんだかどこかお知り合いの方のところへお出かけすると聞きましたです。ビーチェもその方に紹介して欲しいです」
「そうだね、それもいいか…今から行くのはメリッサ・シーネンという人でね。ボクにとってはお姉さんみたいなルートセラーなんだ」
「マルティン様はとってもうらやましい方ですね」
歩きながらボクを見上げながら満面の笑みのビーチェ。ほんとにこういうところ見てるとボクやマリアと同い年とはとても思えんなー…なんだか急に妹でもできたみたいだ。
「どうして？」
「だって、お姉さまがいっぱいいるです。ヘルガさんにタマラさんにそしてメリッサさんですか」
「でもみんなボクの本当のお姉さんじゃないよ？」
ふ、と真顔で足を止めてしまうビーチェ。一回、二回、と激しく頭を振って…だだだ、と走って追いつこうとしてくる。
「で、ででで、でもマルティン様、みなさんを『ねえさん』と…」
「そりゃ、みんな姉さんみたいな人たちばかりだからね。ボクより年上なんだし」
ゆっくりと足を進めていく。少し遅くしないとビーチェが追いつけないかな。
「ハインツ兄とヨハン兄がボクの本当の兄弟。ハインツ兄のお嫁さんがヘルガ義姉さんで、ヨハン兄のお嫁さんがタミィ義姉。そして今から会いに行くメリッサ姉さんは、ボクが昔からお世話になってるんだ。小さい頃からね」
「ふあ…なんかすごいですね、そういうのって」
「…そうかな？」
結構普通だと思うけどな、ゲルンタージュじゃ。町の人がみんな知り合いみたいなもんだし。
「でもでも。ビーチェなんか姉と弟がいますけど、会ったことないからどんなのかも知りませんです」
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