TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[5-22]

　ふふ、と不敵な笑みを浮かべるシルヴィさん。何かの芝居みたいな仕草で人差し指と中指を自分の胸元へ…あ、言い忘れてたけどシルヴィさんて出るとこは出てて引っ込んでるところは引っ込んでる体形と言うか、胸元と言えばかなり大きく膨らんでて（ってこんな言い方してもいいのかなあ）じっと見つめたりしたら失礼になりそうなんだ…。
　ゴホン。
　えー、ま、とにかくシルヴィさんがそこから取り出したのは一通の手紙。
「はーい。どうぞ」
　って渡されてもなー…あれ？　やけに上等そうな紙だな、この封筒。表にはきれいな字、というより威厳に満ちあふれたような高級そうな字体で『マルティン・シュトーレン様　宛』と書いてある。
「よよ。これがゲルンタージュの配達方法なのですか？　ビーチェ、とってもびっくりです」
　…おいおい、そこでシルヴィさんの胸をしげしげと見たりしない。ついでに自分のと比べたりしない。
「ダメです、マルティン様。ビーチェ、配達できそうにないです…」
　だから…。
「大丈夫よー、ビーチェちゃん。こういうのは努力でどうにかなるものなのよー」
「ど、努力ですか。ビーチェ、とってもとっても頑張ってみるです、はい」
　…シルヴィさんまで乗せないでください。どこへどうツッコんだらいいのか分からんのですよ。

　気を取り直して。
　封筒を引っくり返してみる。…ロウできちんと封がしてある。普通ならこんなことするわけないんだけど…差出人は…
『アルブレヒト・マルコルフ・フォン・ホルトホーフェン　拝』
　えっと…？
「このお手紙はねー、先生から預かってきたものなの。先生ね、メリッサに頼まれちゃったらしいのね、マルティン君のこと」
「頼まれたって…ボクのことですか？」
「そうだって」
　たしかにそう言ってるんだけど…何を？　なんで？
「しばらく留守にするから例のことの仕上げをお願いできないかな、って」
「例のこと…」
「そう。例のこと」
　そこでボクを見てにっこり。ビーチェを見てにっこり。多分よく分かってないビーチェもにったりと笑みを返す。

「って、その『例のこと』がよく分かんないんですが…」
「あららー、そうね、メリッサもマルティン君にはまだ話してないって言ってたもんねー…んっとね、ゲルンタージュにしかできない…なんだっけ、カラドリアではむりなほうほう…だっけ、うん、それでやっきょうしぶのせつりっつ？　を目指すってね。あたしも詳しくは聞いてないんだけどねー」
　ゲルンタージュにしかできない、カラドリアでは無理な方法で…薬協支部を設立？　姉さん、何企んでるんだ…？　一体…？

　当然だけどハテナマークだらけのボク。ビーチェはビーチェでカラドリアの名前が出てきたもんだから一瞬だけ顔を輝かせたけども、結局「？」な表情のまま固定してまっていたりする。シルヴィさん…もうちょっと分かりやすく説明してくださいよ…。
「まずは手紙に読んでって先生が。だから確実に本人に渡しなさいって」
　あ。そうだ。手紙だ。そもそも一体誰なんだこの長ったらしい名前の人。…知り合いにいたっけか？　やっぱり知らない人かな？
　ロウをはがして封筒を開けてみる。…うわ、便箋もすごく上等な紙だ。しかも…中の字も見たことないくらい綺麗な字だ…

『マルティン・シュトーレン様

　此度のメリッサ・シーネン氏及びヨナタン・シュタウフェン氏からの申し入れ、確かに承りましたことをお知らせ致します。本件は非常に限定的な事柄ではありますけれど、国王マルキュリアス三世の御名において当地の管理を任されている当家としては見逃せぬ事柄であります。我が家は全面をあげての助力を惜しまぬ所存にございますことをお含みおきください。
　詳細はシーネン氏がご不在とのことでシュタウフェン医師に託しております。聖誕祭には晴の姿を見ることができますように、ここに願ってやみません。

　　　アルブレヒト・マルコルフ・フォン・ホルトホーフェン　拝

　　　　　　　追伸：最近は伺っておりませんが、また君の家の宿屋の食堂へおじゃましたいと思っております』

　あー…あのホルトホーフェン伯爵だ…。