TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[5-26]

　それから…
「ヘルガさんや皆様にお礼を言っておいてくれないかな？　美味しい昼食を頂きましたって」
　…全部は食べきれないだろうなあ…でもシルヴィさんがご近所におすそ分けする、って言ってたからどうにかなるんじゃないのかな、あの料理は。それに藤カゴは後でうちの宿屋に届けてくれることになったんだ。そんなこんなで医院を出てうちへ戻ることになったのだけれど。

　宿屋に帰ってきて。当たり前だけどハインツ兄やアレンさんはまだ戻ってきていない。それにヨハン兄とタミィ義姉は自分の家に帰ってしまった。そりゃそうだよなあ…もう夕方だもん。一日であちこち行きすぎなような気もするんだけどなあ…でも、そんなでも大丈夫になってきてるボクって、やっぱり頑丈になってきてるのかな…？　先生にも言われたけど。最近は体を動かすのが楽…てほどもないけど前ほど苦労にならなくなった気もするんだ。こうやって体って鍛えられていくのかな。
　一応父さんとヘルガ義姉さんに報告しておこうかな、と二人を探してみる。先生のお礼のこともあるしね。
　…だけど父さんはセルゲイさんと出かけているんだそうだ。何でもいつも出入りしてる商人さんがこっちに来てるとかで、他の店も一緒に打ち合わせをすることになったんだって。で、夕食前でちょっとばたばたしてるヘルガ義姉さんに報告とお礼を伝えたのだけれど。
「ああ、別にいいのにね、お礼なんて。いつもお世話になってるのはうちの方なんだし。ねえ？」
　うわあ…美味そうだなあ…。宿屋のとは別にうちの家用で使う中では一番大きな鍋。すでに具材は煮込まれててゆっくりとかき混ぜてるヘルガ義姉さんなんだけど。さっきのスープとは別にやっぱりきのこや鹿肉を柔らかく煮込んだシチューだな、これは。生クリームと牛乳が入っててすごくまろやかなんだよなあ…。
「それで明日伯爵様のとこへ行くことになったです」
　ビーチェの目もヘルガ義姉さんの顔ではなくかきまぜてる手元の方を見てる。自然と指先が口元まで来てるし…何を言いたいか分かるぞ、ビーチェ。だけど今はそういうこと言っちゃいけないんだ。うん。真面目な話してるんだし。
「へええ…すごいのね。二人で？」
「はいです」
　と、ヘルガ義姉さん、手元を休めずに天井を見上げてしまう。あれ？　という顔になってる。
「ジョン君は…いいの？　マルティン君？」

　しまった…そうだ。そういうことなら話をしておかないといけないんだ…ジョンにも。当たり前のことじゃないか…なんか、ちょっと、ぼうっとしてたかな、ボク。
「ボクちょっと今からギルマン商会へ行ってきます。まだ大丈夫でしょうし」
「ええ。行ってらっしゃい。気をつけてね」
　やばい。急がないと。でも背中から聞こえてくる会話は…
「ちょっと味見してみる？　ビーチェちゃん？」
「え？　え？　え？　い、いいんですかこんなうまそうでごちそうであたたかくてゆげがでてて…」
「いいのよ。ちょっと待ってね。お皿出すから…」
　…ギルマン商会だと行って帰ってきたら即夕食だなあ、あ、ジョンも来るなら医院にも寄って先生に言っておかないといけないんだ…うあああ、くっそー…味見したかったよおお…。

　ボクが宿屋に戻ってきた頃には父さんも戻ってきていて。もう日も落ちてきていて。もちろん夕食にはあのシチューがあってもちろん美味しかったのだけれど…それなら、まあ、いいか。

　実はジョンは明日ロバートさんの付き添いでハイドシュタインにまで行かないといけないのだそうだ。例のジェレミーさんの依頼のことで足りなくなった資材の買い足しってことで。本当はロバートさんが一人で行ってもいいらしく「別にジョンを連れて行ってもいいのだよマルティンボーイ？」と一回転半してたんだけど…さすがにね。多分見習いという意味合いもあるんだろうし。ジョンもちょっと迷ってる様子だったし…明日はボクらでホルトホーフェンさんのところへ行く、ということにしたんだ。
　ジョンはやっぱり心配してくれたけど、まあ、何とかなるんじゃないかと思う。伯爵様と言っても全然知らない人じゃないんだし。
　もちろん終わったら報告したいのだけど、ハイドシュタインで仕事てことは日帰りは無理なんだよね。ちょっと長引くかも知れないらしいし。だから三日後なら確実にここに戻ってきてるだろう、ってことで三日後にボクがギルマン商会に来て報告、ということで話はまとまったんだ。

　向こうも夕食前ってことでばたばたしてたんで、あまりジャマにならないように早めに引き上げたんだけど、帰る前に「服なんかは大丈夫なのかねい？」って聞かれて「ええ。多分」て答えたんだけど…正装かあ…なんかそれっぽいのがあったと思うのだけど…まあ、これもなんとかなると思うのだけどね。