TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[5-34]

　一体何を言ってるんだろ…ホルトホーフェンさんは？

　伯爵で王家から任された『領地』があるのは分かる。でもその『領地』は首都コルンにあって…他の貴族の『領地』もコルンにあって…でもその土地に入ることはできない…？
「でもさっき、たしか地主さんと相談がどう、と」
　ボクはさっきから思ってた疑問を口にしていた。だって、地主ってくらいだから土地を管理してるヒトなんでしょ…？
「ええ。地主はいますよ。今でもね」
「でもでも。だったらその土地に行くことは可能ではないのですか？」
　ビーチェもやっぱり疑問に思ったみたいなんだけど。
「それはそうなんですが入ることなんかできませんねえ…」
　なんだか楽しんでいるようなホルトホーフェンさんの笑顔。もしかしたら場の雰囲気を和ませようとちょっとした冗談でも言ってるのかな？　結構こういういたずらっぽいところがある人ではあるのだけれど。

　…とか思ってたんだけど。
「ホルトホーフェン伯爵。…そろそろバラしてもいいんじゃないですか？」
　なんか先生もにこにこ笑い始めちゃって。
「そうですかねえ、もうちょっと楽しんでいたかったのですが」
　そう言うと、カップが乗っていた小さな皿を手に取る。てのひらほどもない大きさ。
「これくらいですかねえ…私のコルンでの領地、と言ったら」

　えー…。

　思い切りのぞきこんでしまうボクとビーチェ。いやだってさ、普通領地とか言ったらそれなりの広さがあって農地とかになってたりとかするもんなんじゃないの…？
　呆然、としてしまうボクとビーチェ。でも、ちょっと真面目な顔になる先生。
「昔はそれこそ大変な広さがあったものなのさ。バズハイムそのものがとても広いじゃないか」
「はい」
「貴族の方々の領地もとても広かったのだね、もちろん。王家や王族のもの…直轄領とかそういう言い方もするね…そうでない土地は全て貴族のものだったんだ。でもある時期を境にその状況は変わってしまうんだ」
「それは…何ですか？」
「議会ですよ、議会」
　なごやかなホルトホーフェンさん。
「市民議会という、一般の市民が政治に関わってくるようになって…そのうち事態も変わってきたのでしょう、貴族の土地は全て各都市に移譲するべし、となったのです。代わりに」
　さっきも手にしていた小さな皿…。
「コルンに家それぞれの領地が移されたのです。最初の頃は多分もっと広かったのじゃないのかな、とは思いますがね。今はみんな一家あたりこれくらいの土地がコルンの一画に集められているのですよ…」

「そのため土地を管理する地主というのも三人しかおりません。そしてはるか昔の格をそのまま引き継いだ土地の格に応じて王宮から給付金が出る、という仕組みになっているのですよ」
「それって…いつ頃の話なんですか？」
「ゲマ街道がさびれ始めた頃らしいですよ。あの頃から変化が始まったらしいです」
　そんなことまであったんだ…。
　ホルトホーフェンさんは今はゲンルンタージュにいるし、他のコルンにいない貴族の方々にも給付金というのは今でも出ているんだそうで（額は王宮の収入…税の一部によって上下するものらしい）コルンから専属の係官が毎年お金を届けに来るんだって。正直、知らなかった。色々あるもんなんだよなあ…。

「ところで。そろそろ例のお話を進めたいのですが」
　ちょっと緊張した顔になる先生。えっと…。
「ああ。マルティン君の薬協支部のお話ですね？」
　こっちを見て、にこっと笑うホルトホーフェンさん。