TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[5-35]

　何の、どんな話なんだろ。

「私からそういった話を上に通す、というのはもちろん何も問題ありません。すでにコルンへ向けて手紙を送り出しておりますし」
「ありがとうございます」
　…手紙？
「実はもう返事も来ておるのですよ」
「本当ですか？　それは何とも早い…」
「どれ。持ってきましょう。先生の驚く顔も見てみたかったのですよ、ははは」
「恐れ入ります…」
　えっと…その。
　ホルトホーフェンさんはそのまま部屋を出て行っちゃった。一体何の話…なんだろ？

「…先生？」
「いや、すまない。詳しい話をする時間がなかなかなかったものでね。実は、君の薬協支部設立に関してメリッサと二人で考えていてね。カラドリアのジェイスン氏を何とかできないか…いや、出し抜けないか、という話になったのだよ」
　ちらりとビーチェを見る先生。ちょっと、首を傾げたりしているビーチェだったのだけど。
「ジェイスン…あ、社長ですかジェレミー・ジェイスン様ですか」
「そう。マルティン君とゲルンタージュでの薬協支部設立で対立している、ね。すでに建物の建設も始まっているようだし、これはうかうかしていられないな、と動き出してたのだよ」
　食い入るように身を乗り出しながら何度も何度もうなずくビーチェ。先生の言ってる意味、分かってるのかな…アレンさんが説明してくれてなんとなくだけど納得してるみたいだけどジェレミーさんと対立するってのはこのコ的にはどうなんだか。
　でも、先生は…なんか楽しそうにも見えるんですが。姉さんとケンカ？する時とはまたどこか違った風に楽しんでいると言うか何と言うか。ちょっと意外な気もする。いつも真面目で落ち着いた先生にもこんな子供っぽい表情があるなんて。
「向こうが貴族で来るならこちらは王族だ、とね。メリッサがコルンでなかなか面白い話を聞き込んできてね。それが元になったのだけれど…」
　そこへホルトホーフェンさんが笑顔を戻ってきたのだった。

「おや？　何か楽しそうな話でもされていたのですか？」
「もちろんあのことですよ。…まだ途中なのですが」
「それはそれは。しかしまずはこの返信を見て頂きましょうかね。…マルティン君」
　ボクの前に差し出されたのは先生のところでも見たロウでみっちりと封をする、立派な手紙。手にしてみるとなんか重いような気がするんだけど…気のせいなんだろうか。
　すでに封は開いている。てことはホルトホーフェンさんはすでに中身を知っている、ということになる。先生はまだ読んでないのだろうけどやはり笑顔でボクに勧めてくれる。
「さあ、読むといいよ」

　…ちょっと、いや大分古い文体なんだ。今風の言葉遣いではない、っていうとこなんだけど。
　書いてあるのはゲルンタージュの薬協支部設立に関してコルンのなんとか（どうにも読めなかったんだけど多分王立…ということだと思う）協会が全面的にバックアップする、と。もちろんもっと上の存在（多分王様ってことかな？　難しい表現なんだけど）の耳にも入っているし王族内でも異をとなえるものはいない…。
「……」
「少々難しい文章ですかな？」
「いえ。そんなことは…」
　実際はあるんだけどね。
「貴族や王族というのはそういった古いしきたりを好むものなんですよ。迷惑な慣習ですけどもお付き合いくださいな」

　…必要な措置があるのならコルンに向けて使者をよこされたい、と。
　そして最後の方に『我々はマルティン・シュトーレン氏に全幅の信頼を寄せるものなり』と書いてある。…ボクの名前が書いてあるんだ。当たり前だけど手紙の文字はとても上手で…達筆すぎて読みにくいくらい。こういうのはお役所とかそういうお堅いところの公式な文書では当たり前なんじゃないのかな、とは思うのだけれど。普段生活してる中ではまずお目にかかれない。

　それを見てるとなんか嬉しくなってきちゃった。ボクは何もできない。ルートセラーの資格は持ってるけど実際に活動もできない。知識もない。それなのに…こんな風に記してもらえる。これってすごいことなんじゃないのかな…って。