TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[5-40]

「マルキスとコナーのお話も決してあなたを追い詰めるためのものでもありません。ただ、そういう情熱のある若者を王室は、バズハイム王国はいつも見守ってきた、それを感じて欲しかったのです」
「…この話は皆が知っていても詳しいことはあまり知られていない。メリッサも調べていくうちに初めて目にしたことも多かった、と言っていたのだよ」

　なんとなく、なんだけど。なんで姉さんがマルキス運河やコナー大橋のことを調べることになって、そしてヨナタン先生に相談して。そしてホルトホーフェンさんが首都コルンにまで手紙を出すことになったのか…なんだか分かるような気がしてきたんだ。
　みんながボクを応援してくれているんだよね…。
　それはもちろん同情とかそういうものでもないんだ。アレンさんやビーチェの言葉を借りるなら「面白そうだから」ということなんだ。そう、ボクが薬協支部をゲルンタージュに作る。それがなんとなく面白そうだから。興味を引く題材だから、なんだ…。
「これからはバズハイム王室の後見付き、ということを公言しても構わないのですよ。その方がカラドリアのジェイスン氏へも有利に働くでしょうし」
「うん。これは大きな武器ともなるだろうね。例えばそういうビラをまいてもいいだろうし、今始まっている建物への中止要請も容易くなるだろうね」
　でも…そこまで大きな話じゃ、ないんだ。本当は。
「そのお話なんですが」
　…いいのかな、ボクがこんなこと言っちゃって。みんなに、アレンさんやジョンや…マリアに相談しなくていいのかな、とは思うのだけど。
「お気持ちだけありがたく受け取っておく、というのは…やはりマズいですか？」

　…正直なとこなんだ、これが。
「本気かね、マルティン君？」
「はい。色々骨を折って頂いたのですが…」
「いや、それは…」
　ボクなんかはそういうことを受けるなんてもったいない、という気持ちも正直なところあるんだ。でも、こういう名誉なことを受けておいた方が後々有利に運ぶことはできる、ということも分かってる。すごくいいチャンスなんだ。カラドリアからの、ジェレミーさんからの対応もたしかに違ってくるだろうし。こっちにはバズハイム王家が付いている、となると。
　でも。そんなんじゃないんだ、何かが違うんだ。
　先生は指を額に当てたまま、黙ってしまった。怒らせちゃったかな…。
「ううむ…どうだろうね…それは」
「私はここまで良い話というのはなかなかないと思うのですが…それでも？」
　ホルトホーフェンさんは怒っている、というより心配そうな顔になってきている。でも、ボクも、やっぱり自分の気持ちにウソはつけない。いや、つきたくない。
「はい。本当に、お気持ちだけでも、そういうことをして下さっただけでも大変に感謝しています。…でも、ここでそういうことを受けてしまうのは、何か…どこか違うような気がしているのです」

「何かが…違う？」
「何と言ったらいいのか、はっきりした言葉が出て来ないのですが…これまでボクの仲間として頑張ってくれていた人たちに対して申し訳ない、とでも言ったらいいのでしょうか…」
「しかし…しかしだよ、マルティン君。王室の後押しと言うのは…」
「ヨナタン先生」
　静かな声のホルトホーフェンさん。
「マルティン君の話を最後まで聞いてあげましょう。話はそれからですよ」

「…ボクは今までも一人でやってきた、と思っていませんでした。さっきのマルキスとコナーの話を聞いても…ボク一人だったら何もできなかっただろう、ここまでは来れなかっただろう、と。薬協支部を立ち上げよう、と思ったこと自体もそもそもは単なる思い付きみたいなものでしたし。たまたま姉さんのお使いでハイドシュタインに行った時に、フレデリクさんに、ふと、なんでゲルンタージュには薬協支部がないんでしょうね、って話してみたのがきっかけですし」

「本当にそんなものなのです。ボクはゲルンタージュがどこよりも、どんな町よりも好きですし、ずっと居たいと思っています。そのための理由の一つとして薬協支部を…と思っただけなのです。それだけなんです」