TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[5-48]

「へ…」
「へではない。私もちょっとした用のついででね。ナスターシャからここの話を聞いて張り込んでいたのだが…」
　張り込む、って。よく見たら天幕まで持ち込んでるし。なんかやけに豪華だぞ、あの天幕。普通に旅行者が使うやつじゃなくて馬車仕立てて旅行するような、いわゆるお金持ちとかそういう人たちが使うもんなんじゃ…。しかも今優雅に腰掛けているその椅子はどっから持って来たんですか…こっちもやたら豪華な木の椅子なんですが。なんだかあの大聖堂の中にあってもおかしくはないような。こういう時は皮の軽いやつを持ち運ぶんじゃ…。
「はーい。お久しぶりでーす。ついにゲルンタージュにまで来ちゃいましたー、てへ」
　てへ、じゃないって。
「エイミーさん…何やってるんですか…こんなとこで」
「何って、お茶の支度ですけど」
　わざわざ石でかまど切って、そこまでするんですか…。上にやかん置いて。あの、こういうのもやっぱりもっと軽そうな、持ち運びに便利そうな旅行用の小さいやつ、使うんじゃ…。
　ああ。なんか。もういいです。言うだけ気にするだけムダって気がしてきた。こういう人たちなんだよなあ…仕方ない。

　そういや、ジェレミーさんは何度かこっちに来てるけど、この二人は来たことあるのかな…って。二人？
「お久しぶりです、マルティン様。さ、こちらにおかけになってください」
「レイミーさん…あなたまで…」
　どっからともなく椅子を持ち出してくるんだけど…レイミーさん。一体どこから…。
「まあ、かけたまえ。張り込んでいた目的は君なのだから。…軽く食事にしようではないか。準備してくれたまえ」
『はい』
　格好は旅の人っぽいんだけどね。三人とも。あ。あの馬はもしかしてこのヒトたちか…。

　ちょっと待て。張り込むって…ボクを？

　エイミーさんが変わらない笑顔でお茶を淹れてくれる。レイミーさんはそつない手つきでちょっとつまむお菓子を。カラドリアのあの事務所で淹れてもらったのと同じお茶と、同じお菓子。…いや、このお菓子は違うな。えっと…あれ？
「君の兄君の店で買ったものだ。クイトと言うそうじゃないか」
「…販売用ですね」
「何かね？」
「いえ。何でもないです」
　タミィ義姉のクイトはボクらに食べさせるのと販売用で作り方も味も違うんだ。タミィ義姉が言うには販売用はちょっとイイ材料使って念入りに焼き込む（当人の言葉通りなら）んだそうだけど…ボクは普段のやつの方が好きだな。
「食べながら、ちょっと、話そうではないか」
「ええ、まあ…」
　そう言や、何か用があるみたいなんだけど…。
「あ。そう言えばナスターシャはどうなんですか？」
　ジェレミーさんは優雅にお茶のカップを置いて、ちょっと身を乗り出したところみたいだったんだけど。ボクの方を見ていたようだったし、なんか軽く咳払いでもしてたような？
「まったく。…君は相変わらず空気の読めない人間だな」
「はあ…」
「ナスターシャの足はもう問題ない。ただ、皆がカラドリアを空けるわけにはいかないのでな。彼女には残ってもらっている。我々とてヒマではないのだから」
　はあ…そうですか。まあ、ナスターシャが回復したんならそれでいいか。

「話、というのは二つある。一つはマリア・ローガンのこと」
　え。…なんかジェレミーさんの後ろに立ってる二人がくすっと笑ったような気がするんだけど…なんかボク変な顔してるのかな。
「そんなに期待するほど…のことでもあるか。彼女は後十日ほどしたらこちらに来る手はずになっている。その時はご母堂のモニカ様もご一緒だ。できればその時に君と共にカラドリアへ戻って、ローガンの現当主マーチン様と直に話をして欲しいのだそうだが…受けるかね？」
　受けるも何も。
「…ボクが言い出したことですから。何ならこれからすぐにカラドリアへ行きましょうか？」
「待ちたまえ。…意外にせっかちな人間だな、君は。コトには段取りというモノがある。モニカ様はまだ出立なさっていないはずだ。ローガン現当主の妻ともあろうお方がそうそうカラドリアを離れることはできない。…マリアだけならどうにでもなるだろうが、ああいうお方がこちらへ来るにはケルディア王家の許しが必要になるのだ。それには、ちと、時間がかかる」

　…やっぱりやっかいだなあ…なんか色々と。