TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[5-49]

「それに、もし行き違いにでもなったらどうする？　また面倒なことになるぞ」
　あ…たしかに。
　ジェレミーさんは、ふう、とため息をつくと組んでいた足をほどいてちょっと空を見上げる。
　…その時思ったのは…なんだろ、ずいぶん普通だなあ、ということ。年の頃もボクらとそんなに変わらないはずだしね。ああいうことがあったし、今もそういうことが実行中なのだけれど。不思議と今目の前で軽く首を傾けたり肩なんか伸ばしている男の人を近くに感じてしまっている。そんな自分が…やっぱり不思議だ。あれだけ好きになれないヒトだったのに。
「そしてもう一つだが」
「はい」
「ゲルンタージュ薬協支部のことだ」

「…はい」
　やっぱりそれはあるよね。あっちはすでに建物だって作っているんだから。
「我々としても譲りたくはないのだが」
　…相変わらずタメとかそういうのがないヒトだなあ。直球ど真ん中と言うか。
「そちらも譲る気はない。違うかね？」
「はい。そりゃあ、もう」
「…ふむ。やはりな。…レイミー」
　右肩を後ろへ捻じ曲げるような格好で後ろに立ってるレイミーさんに何かひそひそ話しかけてる。何度もうなずくレイミーさん。すると天幕へと駆け戻って行って、今度は何枚か書類…？　なんだろうか。書き付けにしちゃなんか仰々しいし。かなりの枚数もある。そんなのを大事そうに胸の前に抱えて戻ってくる…。
　今度はジェレミーさんまでも「失礼」とか言って天幕の方へ立って行っちゃって。天幕の前でレイミーさんとやっぱり小さな声で立ち話してる。一体何がどうしたいんだかなー…このヒトはよく分かんないことが多いね。
「お茶、いります？」
　返事も待たずにまだちょっと残ってた茶碗に、背後からいきなりどばー。…こっちも変わってないなあ、エイミーさん。
「何がどうしたんです？　一体何を…」
「うふふ。社長も色々考えてるってことですよ。あ。ほら、戻ってきましたよ。所長の案に社長が最終的に調整かました作戦、どうかご覧あれー！」
　ドラとかそういうのがあったら本気でじゃんじゃーん、とか鳴らしかねない様子でエイミーさんは、すすすっとさがってしまった。

「済まない。少し手間取ってしまった」
「いえ…」
「失礼だがこちらも色々調べさせてもらったのだよ。青の旅団は各地に構成員を派遣している。それはもちろんカラドリアだけではなくバズハイム王国にも存在している。そう、コルンにも若干名が詰めているのだ」
　そりゃまあ、そうだろうけど。
「うむ。…君がバズハイム王家の援助を断った、という話も調べさせてもらった」
「え。よくそんなことまで調べられましたね」
　あれってホルトホーフェンさんとか爵位のある貴族の人たちだけしか知らないんじゃ…あ、でも調べようと思ったらそういうことだってできるのかな。アレンさんだってそういうことできそうだし。
「それだけ我が青の旅団が優秀だ、ということだ」
　…はいはい。
「正直なところレキシントン様のお話だけでは納得いかなかったのだ。君、という人物が…その、なんだ、大勢の人に知られていて…うむ。失礼を承知で申し上げる。君程度の人物のやることなぞ大したことではない、田舎のごく一部でしか認識されていないだろう、と思っていたのだ」

　あー…相変わらず正直なヒトだな…ボクはなんか慣れてきちゃったけどメリッサ姉さんとかだったら、なんか、コワいことになりそうだな…。

「済まん。気を悪くしただろうか？」
「いえ。そんなことはないですけど」
　ちょっと、ホッとしたような表情…になったかな？　でもなあ、そう思うんなら最初から言葉選べばいいのに。意外に無器用なんだよな、このヒト。見た目はきちっとして見えるんだけど言ってることとやってることがちぐはぐなこと多いし。
「そこで我が青の旅団としても方針を変更せざるを得なくなったのだ。円滑な計画推進はやはり重要だ。そこで…今現在デイル通りに建設中の薬協支部予定地、あれを変更しようと思うのだ」
　いや、まあ、それならそれで別にいいんじゃないのかな、と。
「あそこにルートセイバーの薬共支部を作ろうかと思っている。バズハイム王国には薬共支部が存在しないため、本部の了承もすぐにおりたのだよ」