TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[5-50]

　え？　そっち？　何て言うか…節操ないと言うか何と言うか。

　でも真っ先に出たのはこんな言葉だった。
「…いいんですか？　それで？」
「いいとは、何がだね？」
　すでに書類を何枚も何枚もテーブルの上に広げているジェレミーさん。こういう場で使うには結構広いテーブルなんだけどもうほとんどが隠れちゃってる。書類の内容は薬共…これがルートセイバーの組織なんだね、これのことについて何か色々書いてあるらしいんだけど…細かい字ばっかりな上になかなかじっくり目を通せない状況だから（ジェレミーさんがどんどん話しかけてくるんだ）よく分からない。
　多分『保全』とか『保護』とかそういうことが書いてあるとは思うのだけど？　そういうのもルートセイバーの目的ってことになるのかな？
「これまで薬協支部設立について色々やってきたじゃないですか。かなりな方向転換になると思うのですけど」
「君がそれを言うかね。はは。それほど大したことではないのだよ。ミナハのゲルンタージュ復活は青の旅団の主導のもと、行なわれる。カラドリアでは薬協支部に同時に手を貸すことによってミナハの発展は成し遂げられた。たしかにゲルンタージュでは若干異なるだろう」
「はあ」
「しかしそれもゲルンタージュでは青の旅団監修の薬共のもとに行なわれる、という些細な違いだけだ。ルートセイバーの支部でもミナハ薬店は復活できるし存続もできる」
「いや、それじゃあルートセイバーの意味がないんじゃ…」
　たしか薬草を守る人たちなんだよな。薬草を売り飛ばす薬店ってある意味最大の敵なんじゃ？
「そこまで君に心配してもらえるとは、心外だな。ルートセイバーと言っても全員が全員強硬な手段に出る者ばかりではないのだよ？　君はあのルートセラー君からそういう話ばかり聞かされたからそう思うのだろうが…絶滅寸前の特定薬草の繁殖に一生を捧げているルートセイバーだって存在している。内臓がクスリとなるため、乱獲が進んでいた絶滅危惧種を復活させた薬共支部だってセントレランドにはある。町によってはルートセイバーと共存している町だってあるのだ」
　いくつか書類を示してくれるんだけど…なんか…ちょっと素直に受け入れにくいんだけどなあ…。
「全てがアークライトのように悲劇的な結末に終わっているわけではない。…あれは過激なルートセイバーの一群が異常な行動を起こした結果なのだ。今ではアークライトも正常化しているし、あの連中はルートセイバーの資格を剥奪されているはずだ」

　うーん…どうなんだろう、ホントにそういうことになってるか分からないわけだし。
「君が望むならあのルートセラー君にさらなる詳細を説明しても構わない。謝罪するつもりはないが、説明することはできる」
　何枚かの書類を、とんとん、とまとめてこっちに差し出してくる。…たしかにこれにはそういうことが書かれてある。ちょっと目を通してみると『過激なルートセイバー』『各地における被害』とかそういう文字もある。…まあ、そりゃあ…たしかにね。でもあれだけひどいこと（ボクが聞いた限りだけどね）ができる人がいるってのも、なあ。その人たちは普段どういう生活してるんだろう？　とか思ってしまう。いつもいつも誰かを攻撃している、とか。そういう人たちって生きていけるんだろうか？
　まあ…普通の人たちだって色んな人がいるわけだし。ルートセイバーやルートセラーにだって色んな人たちがいて当然っちゃあ、当然なんだけどね。
　うーん…でも…アレンさんの場合はそういうことだけじゃないような気もする。
「…多分聞きませんよ、いや、会うのも難しいでしょうね…」
　するとジェレミーさんは笑うんだ、これが。
「そうだろうね。それはそれで良い。こちらも道を示せる用意がある、ということだけでも分かってもらえればいいのだから」
　…なんだ、分かってはいるんだ。
　一通り見たので書類を返す。一つ、うなずいてから受け取るジェレミーさん。
「理念の違いというものは君が思っている以上に複雑でややこしいものなのだよ…」

　それから一応と言うか何と言うか。デイル通りの元リンゼイさんの店だった場所についてちょっと話したり。逆にカラドリアのこともちょっと聞いてみたり。結局カラドリア薬協支部はジェームスさんがいなくなっちゃったからヤロミーラさんが「代理」ということで今は管理人やってるらしい。そのうち正式に管理人を募集するんだそうだ。
「…ナスターシャがやってみたい、と少し前に言っていたのだがね」
　茶を口にふくみながら、ちら、と後ろを振り返る。
「いやー、あたしもそういうのアリかなって思ったんですけどねえ…」
　なんでそんなニヤニヤ笑いしてるんですか、エイミーさん。
「同じ薬協支部管理人、ということになれば…ねえ？　色々会ったり話したり…ねえ？」
「…何の話ですか…」
「いやいや。気付いてないってんなら別にそれでいいって話でございます。ささ、お気になさらずに…」
　だから一体何の…？
「所長はただの希望を口にしただけかと思われます。まだまだ仕事はあるのですから」
　レイミーさんはやはり静かな笑みをたたえたまま。
「本心はどうだか、ちょっと分からないですけどね」
　…なんであなたまでそんな意味ありげな表情になるんですか…。

「そうは言っても結局公募、ということに落ち着いたのだよ。これも彼女の発案でね。優秀な私の片腕でもあるし、まだまだこっちで頑張ってもらわないと困る」
　まあ、ナスターシャがそれでいいって言うのなら、それでいいのかな。