TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[1-3]

　んもう。僕だってね、もう大人なんだからね。子供扱いして欲しくないなあ…まったく。
　モナークってね、いつもそうなんだアタマきちゃう。僕のこといーっつもこうやって頭ぐしゃぐしゃってやってれば機嫌いいんだ、とか思っちゃってるんだよね、きっと。おとこのひとって単純だよねえ…僕みたいな大人はそんなことでか・か・かーいじゅうされたりしないもんね。そんなのは子供だけだね、そうなんだもんね。
　ところでさ。かいじゅーってさ、何のこと？　クレータの酒場かどっかで何度か会ったおじいさんがおばあさんとケンカする時によく使ってたんだけど。『わしゃ酒なんぞではかいじゅーされんぞ』って。へへ…実はさ、ちょっとカッコいいかな、って思っててさ、なんかで使おうと思ってたんだ。で、今使ってみたんだけど…間違ってないよね？　大丈夫だよね？

　おっと。今はそんな場合でもないんだよねーこれが。
　モナークが教えてくれたところによると、迷宮での事故ナンバーワンは上からなんかが落ちてきたり、床が抜けたりしてケガすることなんだって。ふっるい遺跡だからねえ…ここも。何千年とか経っちゃってるから結構あちこちガタガタなんだ。でもさ…それでも今までたっくさんの人が出入りしてたわけでしょ？　なんかスゴイよねえ、よくもってるよねえ、とか感心しちゃう。
　で…そのケガを防ぐためには、えっと、迷宮の床をよく見ないと…いけないんだ。
　まず一人が自分の立っている位置から1ブロック、つまり一つ目の曲がり角のあるところまでを、じいいいいい…と見る。姿勢はどんなでもいいんだけど、床に這いつくばるような格好をする人もいるんだって。見えりゃいいんだからそこまでしなくてもいいのかな？　次に杖を用意する。んで、自分が歩く時にその杖で床を、こんこん、こんこん、とやりながら歩く。他にもなんかヤバそうだな、と思ったら壁とか天井とか。そういうとこもつっつきながら歩くんだって（ただ壁はあんまし意味ないってモナークも言ってた。壁になんかのスイッチとかあるのはもっと下の階層からだから、今のところはまだ大丈夫だってさ）。
　後に続く二人目も三人目も四人目もぼおっとしてちゃ、ダメなんだぞ。やっぱし杖持ってこんこんこんこんやった方がいいんだってさ。
　…なんかめんどいよね。うん。僕もそう思うんだけどさ。

「めんどくさくても命落とすよりゃマシだろ」
　って、モナークがね。まあ、そう言われちゃあねえ…やるしかないってもんでしょ。

「こんな感じかな？」
　まず床を見た僕。石ばっか。それからモナークから渡された細い杖で、こんこんこん、と。
「ああ。そんなもんだろ」
　振り返って見るとモナークも杖持ってる。僕のよりちょっと長めのやつ。
「そろそろコチュウゴケの用意もしておけよ。1階層目はまだ外からの明りも入るが、2階層目からは明りの入らない場所も増えるからな」
「うん…分かった」
　コチュ…コチューゴケってのはこれのこと。見た目はただのふんわりした緑のスポンジみたいなんだけどね。こうやってガラスのコップを逆さにしたみたいな専用の器具の内側に貼り付けて、と。僕の場合はこれを組合旗と一緒に頭にくくりつけちゃう。もちろん『薬草アリマス』の文字はきちんと見えるようにね。そういう風に承諾書には書いてあるんだし。僕もね、なんたってルートセラーなんだしぃ…へへへ。
　モナークはいつものように左手に持つんだろうね。右手は杖持つか空けておくかどっちか、って言ってたから。あー…そうだ。なんでこんなもん持って歩くのか、言ってなかったよね、僕。
　これはね、明りなんだ。今はまだランプよりも暗いんだけどさらに潜って行くともっともっと明るく感じるんだって。そりゃあ、迷宮ってくらいだから暗いのは当たり前か。…って、別にダジャレじゃないからね、今のは。こんなお寒いの、あんまし聞かれたくない。

　このコケは光を貯めておけるんだったっけか。詳しいことは分かんないから後でモナークにでも聞いといてよ。暗くなってきたら明るくなって…えっとね、光が弱くなってきたらちょっと揺らしてやるんだって。それともそこらの壁からひっぺがしてもいい、ってモナークも言ってたっけ。んっとね、迷宮には普通に生えてるんだってさ、このコケ。だからと言って迷宮の壁全部が光り輝いているわけじゃあないんだけどね。でも洞窟探検とかそういうのに比べたらかなり明るい方なんだってさ。
　僕もまだ2階層目までしか潜ったことないしね。多分、見たこともない眺めなんじゃないのかな、って今から楽しみなんだけど…。

　あれ？
「…どうした？」
「なんかいるね。…これは…」
「カウント」
　え？
「やれやれ。もう忘れたか？　迷宮で何か敵意を持つモノに会ったら…」
　そっか。そうだった。
「カウント」
「それから？」
「カウント　えーと…3、多分、アカ…アカリネズミモドキ」
「メソッドは？」
「んっとね、シルバー」
「バカやろ、そんな高いもん使えるか、こんなクソ浅い階層で。ペパ弾でいいだろう。…行くぞ！」