TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[1-4]

　まあ、腕の見せ所ってやつだな。こいつにとっては。本当は俺たちサポーターの活躍の場、なんだが…な。

　俺は背負っていた荷物をそっと降ろす。ふむ。もうあの独特な甲高い声が聞こえてきやがる。キイキイとな。俺たちはいつも見てるし、慣らしで2階層目にまで潜った時にこいつも遭ったんだが…なぜか驚かなかった。だが都会のご婦人方があんなの見たら、そりゃあ、もう大慌てになっちまう。こないだ案内した金持ち夫婦なんか奥方は顔面蒼白のまんま腰抜かしちまったし、旦那は退治しようとしてたのか仁王立ちしてたんだが…腰は引けてるし脂汗いっぱいでな。見てられなかったぜ。まあ、普通はそんなもんなんじゃないか？
　アカリネズミモドキは光に寄ってくる習性がある。しかし見た目はそこらのネズミと変わらんもんなあ。でも大きさは違うけどな。ちょっとしたウサギくらいはありそうだ。
　杖もそこらに置く。持っていた右手で降ろした荷物を探る。一般人は武器なんか持ってないし、ルートセラーだと武装を許されてないから俺たちが武器を持つんだ。そしてサポーターの武器の一つがこれだ。

　『シューター』と俺たちは呼んでいる。腕くらいの長さで親指がやっと入るくらいの細い金属の筒、と言ったところだろうか。それほど重くもないし、持ち運びにも苦労しない。
　別に木の棒が突っ込んであってこれは『押し棒』と言う。これを筒の中へとぐいっと押し込んで『弾座』と呼ばれる小さな金属板から弾を射出する。この『弾座』は強力なバネでもって筒の中ほどに引っかけておいて、そこへ弾を込めるんだ。『押し棒』で後ろから突けば弾が飛び出すわけだが…直接突き出すわけじゃねえ。中に特別なガスを入れて密封してある。
　そうだな…空気鉄砲というのを知ってるか？　竹やちょっとした木切れなんかでも作れる子供のオモチャだ。筒の後ろから布をきつく巻いた棒を勢いよく突き込むとゴムみたいな弾やらが、ぽん、と前から飛び出ていくアレだ。アレと原理はほぼ一緒だ。でも空気よりもはるかによく飛ぶガスを専門に作る業者がクレータにはいる。なんでもトシンナの葉やら何やらを使うらしいが、企業秘密とかでくわしくは教えてはくれねえ。でもそいつを詰めて突き出すと、たしかに飛び出すスピードや威力が尋常じゃなく上がる。バネだけじゃあれほどには飛ばないだろうよ。

「…来るよ、アカリホさんびき」
「頭悪そうな略し方するな」

　俺は筒の先端からペパ弾を入れ…押し棒とは別の『突き棒』という細いがしなやかな棒でゆっくりと弾座ごと筒の中ほどに固定していく。この中じゃ、弾は弾座に乗っているだけのようなものだ。だから突き出す時は絶対下に向けちゃいけない。目線よりやや上に向けた方がいい。そこら辺はコツがあるが、そんなに難しいもんじゃないぜ。ま、俺たちはガキの頃からこいつで遊んでいたから慣れてはいるんだけどよ。
　ペパ弾？　ああ…これはペパの実という木の実を乾燥させたものなんだ。中に細かい種が入ってて、揺するとさらさらと砂の流れるような軽い音がするのが上モノとされている。乾燥が足りてないとそんないい音はしねえからな。
　分厚い皮の中に砂粒みたいなのがぎっしり詰まっている。手や足でもなかなか割れない皮なんだが、シューターで撃ち出すと結構あっさり割れてくれる。そして中の種を撒き散らすって寸法なんだが…この種は独特な刺激臭がするんだ。人間だとちょっとツンと来るな、とかそんな程度だが動物にはてきめんだぜ。光の少ない迷宮じゃあ目よりも鼻や耳に頼る連中が多いからな。
　…この実はキロの実の変種とか言われてるが…どうなんだろうな。このバカがちっとは知識持ってりゃそういうことまで分かるんだろうがな。

「ふ、ふ、ふ」
「ヘンな笑い方するな。…そろそろ撃つぞ」
　本来なら俺の後ろに客やルートセラーは誘導しておく。依頼主ってこともあるが、武器も何も持ってないやつにうろちょろされたらジャマなことこの上ないからな。たまーに妙な薬品やら薬草やらで撃退しようとするやつもいることはいるが…俺の後ろから興味深そうに見守るやつがほとんどだ。まあ、その辺も役割分担だ。俺らサポーターは武器で敵意のある動物なんかを追い払う。ルートセラーはその知識でもって仕事をこなす、というのが普通なんだが…。

　このバカは俺の前にいる。もちろん射線からは外してあるからペパ弾が当たったりすることはない。
「撃つぞ」
「おっけい」
　空気鉄砲だと『ぽん』とか可愛らしい音だがシューターの場合は『しゅっ』というように空気を切る音がする。そして…うむ、ちょうどいいな。あいつらが前進してきた鼻先で皮が割れた。ちょっとこっちにも臭いが流れてくる。
「うーーーっし、そりゃああああ！」
　…そして突っ込むバカ一人。最初に見た時は驚いたもんだったがな。背を低くして…三匹いるアカリネズミモドキの近くまで一気に間合いを詰める。なんて動きだよ…ったく。石だらけったってその石の大きさはまちまちだ。結構でかいのもごろごろ転がってるんだぞ？　迷宮の床ってのは。それなのにまるで何もない氷の上を行くように左足から滑り込んで…右手を床に着ける。その右手を軸にして右足を後ろから前へ一回転。そりゃ、たまらんわな…ペパ弾で動き止ったところへこのバカの一撃だ。

「うっしゃあああああああああ！！」
　どっちが動物か分からんね、こりゃ。やれやれ。