TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[1-5]

　ふふふふふふ…もらったあ！

　右足一閃。次々とふっ飛ばされるアカリホ…といきたいところだったんだけど。敵も必死だからねえ…。
「逃げちった」
　きいきい、きーきー鳴きながらね。的も小さいし、きちんと当たったかもよく分かんないし。手ごたえ…いやこの場合は足ごたえかな。なんかそんな感じはあったんだけど。
　ま、いっか。
「無駄な命は奪わないもんだ。追い払えれば上等だ」
「そだね」
　じょうとう、じょうとう。
「それに…アカリネズミモドキはすぐ仲間を呼ぶからな。10匹を超えたらこっちも逃げた方がいい」
「えー…逃げるのー？」
　それくらいなら…
「バカ言え。全身噛まれて死んだ奴だっているんだ。追い払おうとか考える前に逃げないといけねえ。迷宮を甘く見るな」
「甘く見てないもん、僕」
「いいか。世の中はお前が思うほど単純ではなく、俺が思うほど難しくもないんだ。分かったか」
「分かるわけないじゃん、そんなの」

　時々なんだけどね、こういうわけわかんないこと言い出すんだ。モナークってば。なんか自分が頭いい、とか思っちゃってるのかも知んない。やだねえ…じしんかじょーってやつ？　それにそんなむつかしく考えてて人生楽しいのかねえ？　前を見てそのまんま歩いていきゃそれでいい、って僕なんかは思うんだけどね。
　あ。でもなんかモナーク黙っちゃってる…怒っちゃったかな…？
「…先、進むからね？」
　何も言ってこない。でも大きなため息ついて、首を振ってる。…怒ってはないのかな。なんだかさみしそうにも見えるんだけど、あのモナークがねえ…そんな子供っぽいこと思ったりするのかなあ？

　それからはアカリホが来ることもないし。迷宮の床見て危険がないか確認しながら進んでいく…もちろん頭に付けてるコチューゴケの調整も忘れちゃいけない。さっきまで月明かりで明るかったんだけど、そろそろね、なんだかね…迷宮っぽくなってきたって言うか何と言うか。だいぶ暗くなってきちゃったんだ。今までは天井がなかったんだけど、今、上を見上げてみたら石の天井がそこにあるんだ。もちろんきちんとした天井だけじゃなくて、あちこち穴が開いててちょっとだけ月明かりが入ってきたりするところもあるけどね。うーん…そろそろ本格的な迷宮になってきたってとこかな。
　それでもモナークに言わせると下の方へ行くともっと暗くなって「やみ」になる場所もあるらしいんだ。どんな感じなんだろうね、やみってさ。

「そう言えば…」
　そろそろ2階層目への階段かな、という辺り。ここら辺は前にも来たから見覚えある。やっぱり天井がきちんとあって、だから少し暗い。僕のコチューゴケとモナークのコチューゴケ（左手にね、なんか筒みたいなのに入れて持ってる）があるから全然見えないってことはないんだけど。
「お前、実家はエギアで雑貨屋やってるとか言ってたよな？」
　さっきのは気にしてないのかな。いつものモナークの声。
「そだよ。カギョリ雑貨店。メイン通りからは一本外れてるけどね、品揃えはいい方だと思うよ。だからさ、モナークもなんかでエギア来たら寄ってよ。まけないけど」
「…誰もまけろなんて言ってねえよ」
　おっとお。ちょっと崩れたところがあるんで、ここはよけて行こう。危ないからね。
「いや。そうじゃなくて、だな…お前、あの体術はどこで習った？　きちんとした師にでも付かないとあそこまで動くのは無理だ」
「し？」
「先生のことだ。誰かに教わったんだろう？　ああいう風に殴ったり蹴ったりを」
「うん、先生ならいるよ。他にも腕のね、こうヒジ辺りをがしっと絡めちゃうとかヒザの動き止めたりとか」
「…関節技も使えるのか…」
　おお…下に向かって穴が開いてる。
　…階段だ…そろそろ2階層目かあ…。
「カンセツワザ？　何それ？」
「後でその先生にでも聞いておけ。そうか…近所にそういう道場でもあったのか？　それともそういう人が近所に住んでた、とかか？」