TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[1-6]

　モナークってば何聞きたいんだろ？
「ううん。先生ってね、父さんのこと。忙しくて月に何度か、とかそんなもんだったけどね」
「父さん？　雑貨屋のか？」
「雑貨屋はね、母さんがやってるんだ。父さんはええっと…ど、どーるまーたのね、何だっけ…」
「ドールマータ？　マイノス王国の第一傭兵派遣部隊じゃないか！」
　うわ。びっくりした。
「どしたの？　そんな大声出して」
「お前…ドールマータと言えば軍でもかなりの手練れがそろってる部隊だぞ。何せ他の国にその力を買ってもらおうって連中のトップクラスだ、その実力は尋常じゃねえ…」
「テダレとかよく分かんないけどね。父さんはそこでね…何だっけ、えっとね、うんとね、あ、そうだ。せんぎしどーきょー、きょー、きょーかんだったかな。ふくぶたいちょうとかそんなんの一人でさ。…ね？　どしたの？　さっきから？」
「…なんかすげえ親父だな。ドールマータの戦技指導教官？　副部隊長の一人？　だからお前、そんな体術身に着けてたのか…」
「面白い父さんだよ。冗談ばっかし言うし。寒いのばっかだけど」
「そういうツッコミも親父さん譲り、か…」
「あ。階段だ」
　下に向かって黒く口を開けてる穴…ほほ、階段ですなあ、そろそろ2階層目ですなあ。

　こないだ降りたのとは…あれ？　違うとこかな？
「ね。モナーク…ここで合ってる？」
「ああ。問題ない」
「だってさ、こないだ降りたとこと…」
　なんでそこで笑うかな、モナーク。
「はっは、階段が一つだけとか誰が言ったよ？　ここはA8-1-3っつってな、お前とこないだ降りたのはA8-1-6だ。2階層目に降りられる階段は他にも24あるんだぜ」
「ほわあー…」
「どれから降りても問題ねえよ。…もしかしたらまだ見つかってねえ階段なんてのもあるかもな」
「へー…」
　こないだのとは違う階段かあ…。

　ちょっとのぞきこんでみる。降りる前にちょっと、ね。
　さっきの縄梯子なんかとは当然違うんだ。きちんとした階段てやつ。多分これも古いんだろうね、て言うか…古くて当たり前だよね。だって、この遺跡ができた頃にはこの階段もあった、ってことなんだし。…しかし…暗いなあ、やっぱし。
「コチュウゴケは大丈夫か？」
「うん」
　ちょちょっと頭に触ってみる。…大丈夫大丈夫。僕のてのひらに元気よく光当ててるし。
「よし。じゃあ2階層目に行くとしようかい…」
「うん…」

　今度は僕が確認して、先に降りる。何せ階段の幅は二人通れるほど広くないもんね。
　…降りた先は…やっぱり石だらけの床と壁。天井は1階層目より低いかな。あ…当たり前か。1階層目って本当は天井なんかないんだもんね。時々天井っぽく月の光を照らさないようにしてたのはながねんのどしゃがつみかさなって…
　ああああ。めんどい。別にどうでもいいや、そんなん。ここにはさっきよりちょっち低い天井があるってことで。
　低いったって僕はもちろん背の高いモナークにとってもじゃまになんかならない。んでも…天井も石なんだ。ミノマリナ迷宮って全部が全部石でできてる、って小さい頃から聞いてたんだけど…ほんとにそうなんだ。どうやって作ったんだろうね？　やっぱりいっぱいの人を使って作ったのかな…一つ一つ石を積み上げて行ってさ。だったらとってもたくさんの人が必要だよね？　えらい王様がドレイをこき使って作ったのかな…それとも実はすんごく長い時間かけた、とか？

　あれ…でもさ、てことはさ…積み上げるってことは下から積んでいった、ってことだよね？　じゃあさ…一番最初に石を置いた人はそれこそ300階層目くらいに置いたってことだよね？　その人は…一体どうやってそんな地下の地下の奥深くにまで潜って行ったんだろ？　今はこうやって迷宮があるから潜れるけど（それでも300階層目なんて誰も潜ったことないらしいけど）その頃はそんなものがあるわけないし。
　…？？？　どうして…なんだろ？

　と、考え事してたら後ろからモナークが、ぐい、とえりを引っ張ってきた。おおっと。
「おい。どうした？」
「ごめん、ちっとぼおっとしてた」
「頼むぜ。…迷宮じゃあ、そういう油断が命取りだ。疲れたなら遠慮なく言え。休憩にする」
　おろ。なんか優しい。

「巻き添えで遭難、てのが一番バカらしいからな。依頼人置いてサポーター一人で戻るなんて恥ずかしいことはしたくねえんだ、俺は」
　…まあ、そう言うだろうと思ってたけどね、モナークなら。