TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[1-8]

　しかもこの依頼主、初めての迷宮でこれの調査をするって…しかもこの額でか？
　さすがの俺も開いた口がふさがらなかった。…ムチャすぎるだろ、これは。
『気持ちは分かるよ、気持ちは』
　係員も何度も何度もうなずいている。サポーター経験者なら誰でもそう思うだろうな。

『すいません、俺にもちょっと…』
　こういう依頼は受けないに越したことはない。俺は軽く手を挙げてその場を去ろうとしたんだが…。
『そこをなんとか頼まれてくれないかな、って話なんだ。何だったら報酬の上乗せ交渉もこっちで引き受けようじゃないか』
　へえ…そりゃすごい特例だな。そういう交渉事は当事者同士、つまり依頼人と仕事を受けようってサポーターの1対1で、ってのが鉄則なんだ。協会は基本的に場を提供するだけってな。でもなあ…
『…うーん…』

『とりあえず10階層目まで潜ってみる、というのはどうだろう？』
　お。手を替えてきやがったな。たしかに10階層目より上で戻って来ても銀貨15枚はもらえるんだもんなあ。
『さらに条件として10階層目ごとにそれ以上潜るかどうか決める。どうだろう？』
『なるほど…でも火吹き竜は…』
『そんな浅い階層じゃあ、見つからないだろう。もちろん相手方にも確実に見つかるわけじゃありません、って説明はしておいて納得してもうらうよ。初めて潜る迷宮なんだからね。これからまた何度かトライしてみて下さいってことも伝えておこう』
『…トレーニングってことですかね？』
　うん、と大きくうなずく。
『そうだね。そういう感じなら…どうだろう？　受けてもらえないだろうか？』

　で、俺は黙って席に着いて、グラスを手に取ったんだ。…やっぱ受けなきゃよかったかな。あの時は結構ラクショーかと思ってたんだが、な…。

　その後報酬の上乗せは無理だった、という連絡が届いた。まあ、その辺は期待してなかったから問題はねえんだ。でも実際に引き合わされてみて。…まさかこんなバカが依頼主とは思わなかったぜ…人生なんてこんなもんなのかもな、とか思っちまった。
「ねえねえ、モナーク、3階層目ってまだかなあ？」
「今2階層目に来たばっかなんだぞ。まだ先だ。気をつけて歩け」
「ふえーい」
　まったく…度胸があるんだかただのバカなんだかよく分からん。

「…？」
「どうした？」
　俺より先を歩いていて（本来はサポーターが前を歩くんだ）床の確認もしていたんだが…ふ、と立ち止まりやがった。
「なんか…いるよ？」
　…声も何も聞こえない。アカリネズミモドキじゃなさそうだな。が…たしかに何かいる。ここいらは2階層目の中でも大きな石がごろごろしていることでも知られている。1階層目、つまりすぐ上の階の床が抜けているんだ。いつからこうなっているかは分からねえ。でも場所によっちゃ俺の背なんか余裕で追い越しちまうほどの石やら、運ぶことなんざ考えることもできないくらいでかいのも転がっているんだ。
　それとは別に小さいのもあちこちにある。ちょうどいい、椅子くらいの高さのものもある。
「…座ってるね」
　頭のコチュウゴケを調整しながらそんなことを言う。俺は無言でうなずくと…シューターを取り出した。…正直、俺やこいつのコチュウゴケではまだ遠すぎてはっきりとは見えないんだ。何かが座っている…人、なのか…？
「カウントする？」
「いや待て。焦るな。…もう少し近づいてみよう…」
　じりじりと近づいてみる。…おや…こっちに気付いたか…？　んむ…？

「あー…お姉さんだ。やっはーい、なんでこんなとこにいるの？」
　ひゅうっと飛び出していくバカ。おいおい、なんだあ？　知り合いなのか？
　石の上に腰掛けていたのはたしかに女性だ。今は立っているが、抱きついてるあいつと比べるとまあ、なんだ、いかにも女性だな、という外見だ。…迷宮には人のような格好をした害獣もいるとかそんな話もあるんだがな。これも火吹き竜と一緒でただの噂なんだ、気にしなくていい。
　だが…俺にはちょっと引っかかることがあるんだ。基本、迷宮で一人だけ、というのはあり得ない。どんな人物にでもサポーターがつくはずだ。抜け道の多いマイノス王国の管理でもそこら辺だけはしっかりしてる。サポーターなしで迷宮に潜っているのがバレたらかなりの重罪になる。一般人じゃおいそれと目にできないような額の罰金背負わされる上に、マイノス王国から追い出されて二度と入国できなくなるんだ。
「よお」
「あら。怖い顔。あなたがマナメちゃんのサポーター？」
「…ああ。あんたは？」
「私？　私もサポーターよ」