TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[1-9]

　サポーター…だと？
　左手にコチュウゴケの詰まった筒を持って、やはり荷物を背負ってはいる。サポーターの標準装備と言えば標準装備なんだが。
「ほら。これ見て。メダルもあるのよ」
　右手には薄暗がりの中で、きらり、と光るてのひらくらいのメダル。これはサポーター協会から発行されたもので、もちろん俺も持っている。色でランクが分かるようになっていて…銀色か。俺と同じDランクか。Cならこれに金色の縁取りがつく。Bは金色で、Aは金色に白金の縁取りがつく、らしい。そこまで見たことないから本当かどうかは分からねえ。
　Fは真っ黒なメダルなんだ。そこらの土産物屋でも買えそうなくらいのちゃちいやつでな。Eになるとようやく銅のメダルがもらえるようになるんだ。
「あ。僕もねえ、持ってるよ、ほら？」
　お前のタブレットなんかどうでもいいんだよ。どうせ皮のケースに入ってるから見えないくせに。

「で？　サポーターが一人で何の用だ？」
「まだ怖い顔してるのね。依頼なしで一人で潜っちゃ、ダメなの？」
「そりゃ…ダメってことはねえ」
　たしかに迷宮で一人だけ、ってのもサポーターならあり得るな。まだ2階層目だし、訓練とか…何か確かめたいことや試してみたいことがあって浅い階層に一人で潜るってみる、ってこともないわけじゃねえ。ないわけじゃねえんだが…。
「…名前は？」
「アデレード。あなたは？」
「モナークだ」
　それを聞くと、ぽん、と両手を打ち合わせる。まだしがみついていたあいつが「？」てな顔で見上げてたりする。
「ああ…聞いたことある。たしか…クレータ生まれのクレータ育ち。でもお祖母様がエギアのご出身なのよね？　お父様のお母様に当たる方よね。お祖父様もサポーターで、お祖母様のご依頼で78階層目まで潜った。その縁でご結婚なさったのよね？」
「へー、モナークのお父さんのお父さんってサポーターだったの？　へえー」

　…何もんだ、この女。なんでそんなことまで知ってるんだ…？

　正直、アデレードなんてサポーターは聞いたことねえ。女のサポーターだって何人かいるんだ。でもそんな名前のやつはいねえ。そりゃあ俺だってサポーター全員の名前を知ってるわけじゃねえ。でもな、こんだけの美人なら何かの噂くらいになっていてもおかしくねえじゃねえか？
「…何でそんなこと知ってる？」
「ちょっとしたつてがあるの。…迷惑になるのかしら？　こういうのは？　話の中でも迷宮内で本名は出さないことにしてるのだけれど」
「そりゃ…ご配慮、感謝するよ」
　てことは親父やじいさんの名前も全部知ってるってことか。…俺の本当の名前も、か？　ほんと、何もんなんだ？
「ねえねえ、お姉さん」
「どうしたの？　マナメちゃん？」
「火吹き竜ってさ、本当にいるの？」
　って、お前はお前でなんてこと聞いてるんだ？　するとアデレードと名乗ったこの女はまるで自分の子供をあやすような口調ではっきりと言い切りやがった。
「うん。いるのよ。大丈夫、そのうちちゃんと見つかるからね？」

　それからは何を聞いても笑みをたたえたままはぐらかすばかりだ。…つて、って何のことなんだ。何でそんなことまであんたは知ってるんだ…と疑問、いや疑惑はふくれ上がるが、そんな俺の気持ちを知ってか知らずか「さあ？」と繰り返すばかりだ。
　そのうち、ひょい、と大きな石の影に隠れやがった。当然俺もその後を追う。
「…？」
　すると…いねえんだ。ここいらは大きな石がごろごろしているから隠れるにはもってこいだ。でも…いねえ。明りが十分とは言えねえけど…いねえんだ…。
「どこ行ったんだ…？」
「あー、そのうちまた会えるよね？」
　ちょっと待て。そう言えば…
「お前、アデレードと知り合いなのか？」
「うん」
「…一体何もんだ、あいつ」
「依頼主だよ。エギアでね、僕に『迷宮の生き物を調べて欲しいの』って依頼してきたのがあのお姉さん」
　おいおい。
「その時に本名とか住んでる場所とかそんなこと言ってなかったか？」
　すると、なんだかにまあっとイヤな笑い方しやがる。
「あれれー？　モナークってばああいうお姉さんが好みなのー？　なんだかなあ、えっちだなあ。こんなとこでなんぱのお手伝いを僕にさせようって話ですかあ？　ひゅーひゅー」
「…何バカ言ってやがる。聞いたのか、聞いてないのか、どっちだ？」