TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[1-11]

　ほええ…そんなことまでやるんだ…迷宮の中って。
「何よりも俺たちが生きて戻るためだがな。…こうしておけば後から来るやつも大丈夫だろうさ」
「うん。そだね」
　そんなこんなでナンタラカンタラを後にした僕たちだったのだけど。

　なんかさ、広いよね、ここ。やたらと。
　モナークや他の人の話によるとさ、この迷宮って1階層目が一番広いんだって。で、次に2階層目、その次に広いのが3階層目…ってだんだん狭くなっていくんだって。でも1階層目ってほとんどが土に埋まっちゃってるし、みんなさっさと2階層目に行っちゃうだろうから、そんなに広いとは思わないんじゃないかな。だから、ここ2階層目が多分一番広いなあ、とかそんな風にみんなも感じてると思うんだけど…。
　ずうっと石ばっか。もちろん曲がり角やところどころで床や天井を確認しながら進んでるんだけどさ。あれから特になんか出た、誰かいたってこともないし。ぐるぐるっと同じとこ回ってる…？　なんかそんな気分にもなってきちゃうしさ。
「あーう。なんか…疲れた」
　ちょっと弱気だとは自分でも思うけどさ。こんな言葉が出てきても…僕が悪いわけじゃない…よね？

　すると。後ろを歩いてたモナークが、ぴた、って止まるんだ。
　あ…怒られるかな…。
「そうか。そうだな…」
　あれ？　なんか地図みたいの見てる。もちろん右手にコチューゴケの入った筒持って。左手に地図っぽいの持って、照らしてるんだけどね。
「もう少し先に泉がある。そこで休憩にするか」
「…いいの？」
「いいに決まってるだろ。やばいと思ったら休め、って言っただろ？　…なんて顔してんだ、ほら、歩け」
　…時々優しいよね、モナークって。
　いやー、なんかね、こういうのもいいかな、とか思っちゃったりしたわけですよ、へへへ。元気出るし。

　さっきから進んでいるのは人一人通れるくらい…なはずはないか。僕が両手を広げても全然壁には届かないくらいだし。モナークでも無理っぽいかな。そうだねえ、人二人…いや三人…いやいやもっとかな。五人くらいは横にきっちり並んだら通れるんじゃないのかな、ってくらいはある。
　んにゃ…五人は多いかな、やっぱ。四人くらいにしとこう。
　さっきみたいに石が崩れてるとこもあるんだけど。でも、床とか壁とか天井とかはのっぺりした石でできてて、今歩いてる辺りはそんなにきつくもない。もちろん崩れてもないしね。時々小さな石ころがあるくらいで、平らな道が続いてる。
「あそこだ。あの角を右に」
「あいよっ」
　曲がり角。…ん、なんか音がする。今まで音って言うとアカリホの鳴き声とか靴の音くらいだったんだけど、これは違う。
　僕が先にそこを曲がったんだけどね。…思わず声が出ちまいましたよ、あれには。

　泉があるんだ。そこに。
　もちろん地上にあるやつじゃないよ。草とか土の上にこんこん、と、ってわけじゃない。ここは地下の迷宮だからね。石の割れ目から少しずつ湧き出してきてるんだろうね、でもぽたぽた落ちてきてるそのちょうど真下に一抱えできそうなくらいの石があって…。
「これ、飲めるの？」
「もちろんだ。俺たちはこれを『一番目の泉』って呼んでる」
　まんまな名前。でもそれが迷宮っぽくっていいな。
　石はなぜかでっかいお椀みたいにくるりと削り取られてある。そこへ水がたまって…そこからさらに下へと床へとぴちゃぴちゃ落ちて行ってる。てことはもっと下の階層行ったらまだ水場がある、ってことになるのかな。それとね、それとね。この辺、コチューゴケがびっしりぎっしりと壁にも天井にも床にも生えているんだ。前にさ、モナークがその辺のをひっぺがしてもいいって言ってたよね？　でも今まではこんなたくさんは生えてなかったんだ。
　じんわりとした優しい光なんだ、これが。水の流れ落ちる音とその光に包まれた泉を見ただけで…なんかお腹いっぱい、って感じになっちゃう。

　水はね、冷たくてほんとおいしい。手ですくって何度も何度も飲んじゃった。
「あんまり飲みすぎるなよ」
「ほーい」
「それと水筒の水を替えておけ。新鮮な水の方がいいからな。余裕があったら別の容器にもいれておけ」
　そりゃ…そうだ。予備もあった方がいいだろうしね。背中の荷物の…あった、水筒。なめした皮でできてるんだけど、中の水は昨日クレータの水のみ場で汲んだっきりだったからね。だいぶあったまっちゃってるなあ…おお、入れ替えるとほんと冷たいなあ、これ。これなら僕の体も冷やしてくれーた、なんてね。

　あああああ、やっぱり疲れてるんだ、いつもの僕ならこんなの思いついても絶対口にしないってのに…あああ。