TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[1-13]

　おお…なんかちっと元気出てきたぞ。…いや、多分、だけど。足がなんか軽いような気がするんだよね。水、飲んだからかな？
　もしかしたらじんせいにも休憩が必要ってやつですか？　えっへへ、なんか深そうなこと、言っちまったい。らしくないねえ僕にしちゃ。でも、こういうことを言えるくらいにふっかつしてるってことなのかな？

　ついでに頭にくくりつけてあるコチューゴケも、ちょっと交換しておく。モナークが言うにはね、全部換える必要はないんだって。これさ、見た目がフツーのスポンジっぽいから生き物には見えないじゃん？　でもこんなでも生きていて呼吸やら何やらしてるんだって。だから時々こうやって生きのいいのと交換してやると光も強くなるし、長持ちするようになるんだってさ。そいでね、生きのいいのが近くにあると他の疲れたやつも元気になってくるって話でね。今ある分の半分くらいを取り替えるとそれだけで古いのも元気になって、前よりも明るくなるんだって。
　だからまずは…ここらへんにしよっかな。泉のちょい上くらいの元気良さそうな一塊を、むんず、っと。それから頭のコップみたいのを取り外して…と。中のコチューゴケをむりむりっと半分くらいに割って、っと。
「あ。ねえ、割った半分はどうすんの？　捨てるの？」
「そこらに捨てても問題はねえさ。でもな」
　と、モナークがあごに手をやってあちこちを見回す。
「…あの辺か。いいか？　よく見てみろ？　コチュウゴケがちょっと盛り上がってるだろ？　俺らは成長点と呼んでるんだが、あそこへ貼り付けておくとまた育っていく、ってことになってんだ」
　そう言えば。たしかに。僕がさっきむしりとったとこよりも、ちょい、ちょい、ちょーい、も一つちょーい上かな。光ってるコチューゴケのつんつんした葉っぱ…アレ、葉っぱなのかな、どうかな、なんかお茶っぱみたいだから葉っぱなんだろうけどさ…がたくさんあって、ほんとにもりもりっと盛り上がってる場所があるんだ。てのひらくらいの広さかな？　だからそんなに広くはないんだけどね。
「へえ…なんかすごいね」
「ああ、お前じゃ届かないな。どれ、貸してみろ。俺が…」
「大丈夫大丈夫。あれっくらいならへっちゃらだよ」
　あれっくらいなら問題ないって。ちょっとジャンプしただけで届いちゃう。

　ぴょーい、っと。

　って、何あぜん、としてんの？　モナーク？
「おま…あそこ俺でも結構気合入れて跳ばないと無理っぽいってのに…」
「え？　全然余裕だよ？　あれくらい？」
「そうか？　そうなのか…」
　ホント、大したことないって。なんでこれくらいでびっくりしてるんだろうね？　おかしくなっちゃう。

　コチューゴケも新しくしたし、もちろん水も新しくしたし。さ、行こうか…ということになったんだ。『一番目の泉』を後にして…迷宮を進む。とりあえず今は3階層目を目指してね。まずは小さなことからこつこつとやっていかないといけない。だから今まで以上に慎重にね…
「うげえ」
「どうかしたのか？　ああ、これか」
　僕はね、床を見ようと思ってたんだよ。せっかく明るくなったんだしね、コチューゴケもね、頑張ってるんだしさ。でも…
「ゆ、床が…ない…」
「ここは大きく崩れてるんだ。この方が近道なんでな、こっちから来てみたんだが…おい、何をぼうっとしてんだ？　あっちに渡れる場所がある。行くぞ」
　行くぞ、ってねえ…簡単に言ってくれちゃうけどさ、向こう岸が全然見えないんだよ？　さっきもこんなんあったっぽいけど全然違う。
　コチューゴケの光が全然届いてないんだ、あっちには。ちょっと下をのぞきこんで見る…うわ、ほんと、何も見えないや。こうなってくると光のありがたみってんですかね？　なんかそういうのが分かってきちゃうな。だって、ここから見える限りでも大きな部屋一つ分くらい大きく大きく崩れてるんだから。それも深い深い。こりゃあ4階層目、いやいやそんなもんじゃない8階層目くらいまで深く崩れてんじゃないんですかねー…。迷宮内大ほーらくとかなんとか。
　ってモナークに言ってみたんだけどさ。
「あ？　何言ってんだ。ここは単に3階層目の天井がちょっと崩れてるだけだ。大したことねえよ」
　…って、あっさり。そんなもんなんですか…。

　モナークが筒で指した先には細い道が一本。こりゃ、なんかで部屋の床だけが抜けちってさ、壁だけ残ったような感じでさ。でも床のほんの一部だけが壁にへばりついててそこが道になってる…てとこなんじゃないのかな。それこそ人が一人通れりゃそれでおっけー、みたいな細くてぎざぎざな道が奥へと続いてる。もちろん、その先がどうなってるか、なんて見えないんだ。
　うおおお…これは…いいねえ、燃えるねえ。
「何してんだ？　行かねえのか？」
「行く行く。僕が先に行く…へへへ」