TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[1-15]

　…とらっぷ、って…何？

　聞いてみようかな、どうしようかな。モナーク怒るかな。なんか…真剣な顔だったからさ、ついうなずいちまったけど…一体何なのかな、とらっぷって。話の感じだとあんましイイもんじゃなさそうだね。あ、動物の名前かな、アカリホみたいに。それとも何かとんでもなくヤバいもんなのかな？
「えっとさ」
「なんだ？」
「どんなの…なのかな、その…とらっぷって」
「そうだな…」
　ちょっと考え込むモナーク。
「3階層目だとやはり落とし穴かな。もっと下の階層なら一気に別の階層へ行けるなんて激しいやつもあるが、そこまでひどくはねえ。ただ、段差が大きいことがあるからケガをすることがある」
　落とし穴…落とし穴？
　あ。なーんだ、とらっぷってワナのことかあ、なーんだ、そういうことか…あっははは…。
「つまんねえケガで引き返すてのもバカらしいだろ？　だからこの階層からは慎重に行くんだ。いいな？」
「うん」
　そうだよ、そうだね。これまでみたいにあんましばたばたしちゃあ、いけないんだ。そうだよね。

「それともう一つ。この階層からはちょいと面白いもんが見られるぜ」
　ん？　何だろうね。
　モナークは地図を確認しながら、なんだかちょっと目が笑ってる。
「何があるの？」
「そいつは着いてみてからのお楽しみ、というやつだ。言った通り金は持ってるな？」
「えっとね、うん。来る前に言われてたから持ってた分は持って来てるけど…」
　そうなんだ。ミノマリナに潜る前にね、てっきり今持ってる銀貨やら銅貨やらはどっかに預けておくもんだ、って思っていたんだ。だって、迷宮の中でお金使うことなんて…あるわけないじゃん？　そりゃ、迷宮の外とかクレータの町とかで使うことはあると思うけどさ。中では…まさかね、と思ってたんだ。
　でもいざ潜る時にモナークが今持ってるかどうか確認してきてね。どっかに預けるヒマもなかったから「持ってるよ」って答えてそのまま来ちゃったんだ。
「よし。持ってるならいいんだ。…進むぞ」

　3階層目。そう言えばなんか違うなあ、と思ったら壁の色がなんか違うんだ。うん、今までは灰色っぽい石の色だったんだと思う。何せコチューゴケの光だけだからね。そんなにはっきりと見えるわけじゃない。でもなんとなーく灰色とか汚れた白とか、そんなもんなんだろうなあ…と。
　でもここはなんだか黄色っぽい気がするんだ。
　壁に手をついてみるとさらさらっと細かい粉が手につくんだけど、これはホコリとかじゃなくて、なんだか壁の石の粉っぽいの。1階層目からこうだったんだけど、色は白…ってか灰色。フツーに石を触ったような感じなんだ。それは3階層目に着いても同じ。そっと壁に触って指先にくっついたのをむにむにしてみたんだけど、やっぱり灰色…ってか暗い白ってかそんな感じ。
　でもでも。いざ頭のコチューゴケの光で照らしてみると。なんかどっか黄色みたいな色が見える気がするんだ。全体が黄色ってわけじゃないんだよ？　ただ、なんかもやあ、っと黄色がかっているって言うか何と言ったらいいのか…。

「ああ、そりゃあ3階層目くらいからは昔の塗料が残っているからだ」
「…とりょう？」
　思い切ってモナークに聞いてみたらこんな答えが返ってきた。
「昔々のな。もっと下の階層へ行ったらまだまだ残ってるから、また違って見えるだろうぜ。空気が動きにくいからそういうのが残ってるとかそんな話だ」
「へー…」
「色があった方がコチュウゴケも繁茂しやすいらしいしな。そんなに気にすることじゃない」
　うーん、でも気になるっちゃあ、気になるよね。でも…下の階層行ったら違った色になるのか…楽しみだなあ。

　と、そんなこと気にしながら（言っとくけど、そんなとこばっか見てたわけじゃないからね。ちゃんと床とか壁とか調べながらここまで来たんだから）歩いていたらモナークがね、
「そこの角を左だな。ドアがある」
　ドア？　そう言えばここまででなんか部屋らしいとこって言うと、さっきのほーらくしたとこくらいだったんだけど。他は全部通路だったもんね。『第一の泉』だって通路の行き止まりみたいな狭い場所だったし。
「…そうか。部屋は初めてか。何せ古い迷宮だからな。こうやって後の時代になってからできたもんも色々あるってことだ。下の階層行ったらもっと色んなもんがあるからな、楽しみにしとけ」
「ん、うん」
　古い木のドア。でもいくらなんでも迷宮ができた時からずっと残ってるとは…思えない。木なんだし。普通に。てことは後から付け足したってことになるのかな。
「開けるぞ」