TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[1-18]

「うん。迷宮の生き物を調べて欲しいってね。お姉さんに依頼されたんだ」
「お姉さんですか？　マナメさんのですか？」
「え、いや、僕のじゃないけどなんかお姉さんっぽいからそう呼んでるって言うか…」
　お。なんとか別の話になってきたか。この分だと余計なことまでしゃべったりはしないだろうな。

　…そう言えば…。
「なあ、ヤーネン。アデレードってサポーター、知ってるか？」
「アデレード？　男…じゃないよね？　女の人？」
「ああ」
　ちょっと考えるヤーネン。
「そうだなあ…知らないなあ。その人がどうかしたのかい？」
「いや。なんでもないんだ、ちょっと気になっただけでな」
「…珍しいね。モナークが他人を気にするなんて」
「そうかな。…悪かったな、変なこと聞いて」
　ヤーネンも知らないか…一体何者なんだ、あの女？

　荷物は外に置いてあるったって、ここに来るってことは何か用事があるってことだ。だからヤーネンのやつも店の商品を手にとってみたりじっと眺めていたりしている。あいつは…あのホルガって先生と何か話しているみたいだ。結構盛り上がってるな。先生、ってくらいだからああいうのは扱いやすいんだろうか？　まさかな。
　ヤーネンが手にしていたのはペパの実か…そうだ、俺も今のうちに買っておくか。下へ行けば行くほど高くなるからな。ちょっと多めに持っていた方がいいだろう。
「俺にもペパの実をくれ」
「あいよ。…10入って銀貨2枚」
　妥当な額だ。ちなみにクレータなら15個入りが銀貨2枚ってとこだ。それほど長くならないようなら手持ちで十分なんだろうが…何があるか分からんからな。この額でも良しとしねえとな。
「…？」
　おいおい、どうした？
「商品、渡してくれよ」
　おっさん、何やってんだ？　ペパの実が入った皮袋、差し出したまま動かねえ…？
「…どうだい？　これにちょいと色を着けねえか？　プラス銅貨5枚でいいぞ」

　…何言ってんだ？　思わずヤーネンの顔を見ちまう。あっちも、ぼうぜん、とした顔でこっちを見てくる。
「今さら値上げか？　そんだけ上げるってんなら二つ下の5階層目で買うわ」
「違う違う。ちょっとしたオマケを付けようか、って言ってんだ。その分余計に払ってくれりゃあ、それでいいって話だ」
「何だよ。何売りつけようってんだ？」
　すると…ぐいっと顔を突き出して手を口に寄せる。
「アデレードだよ。ア・デ・レー・ド。その情報を教えようってんだ。どうだい？　買うかい？」

「…ガセじゃねえだろうな」
「疑うってのかい？　まあ、情報の受け取り方なんてのは人それぞれだけどよ。ガセかどうかは聞いてから判断してくれや」
「…分かった」
　ペパの実が入った皮袋を差し出してくる。ついでに片手も突き出してくる。
「モナーク、買うのかい？」
　そんな心配そうな声を出すな。
「少しでも情報が欲しいところだからな。…水でもいいか？」
「ああ、もちろんだよ。水なら…3杯てとこかな」
「妥当な額だ」

　…おっと。そうだった。迷宮の店についてあいつに説明しとくんだった。って…おーい、何やってんだ？
「あ。モナーク、面白いよ？　石の色がねえ、赤くなったり青くなったりしてね、おおう、泡まで出てくる…」
　おいおいおい…本当の意味で店広げてるんじゃねえよ…なんだかよく分からん薬品やら器具やら…。
「すみませんねえ、こういう教え甲斐のある子を見ると、ついつい色々と見せてあげたくなってくるのですよ」
「いえ。まあ、その。それは別に構いませんが…」
「おや。水筒、ということは何かお買い物ですか。…ほら、マナメさん。これは地上ではなかなか目にすることのできない取引法なんですよ。よく見ておいた方がいいですねえ」
　やっぱりこういうのの扱い方が上手いのかね？　「何々？」とかとんでもなく食いついてきやがる。…そこまでかぶりつくほどのことでもねえんだけどなあ…？