TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[1-20]

　まったくあのやろ、何が幽霊だ。ふざけんじゃねえぞ。

　水を三杯。それはそれでいい。水のいいところは俺らみたいなサポーターなら必ず水場を知っているってこった。つまりどこへ行けば手に入るか、知らねえサポーターはまずいねえ。俺が今持っているのは10階層目までの地図だが、何百年もの間書き直しが繰り返されて常に正しいものになってる協会発行のモノだ。もちろん水場となる『泉』の位置も書き込まれてある。
　どんなに迷ってもそこへ辿り着けば水は確保できる。だから今払ってもまた汲めばいいわけなんだが…。
『よし。じゃあ、アデレードについて俺が知ってることを教えよう』
　おっさんはもう水をかめに入れちまってる。こういう『水取り引き』は後になって水返せ、とか言わねえのが暗黙のルールになってる。まあ、本当に高価なものを水で取り引きすることはねえもんだしな。ほとんどは実や薬なんかのちょっとした消耗品と…形のない情報を得る時なんだ。
『アデレードって…モナークが会ったって言う女の人だね？』
『ああ。サポーターって言ってやがったが』
　するとおっさんは何度かうなずくんだ。
『そうだ。サポーターなんだよ。アデレードってサポーターはたしかに存在していたんだよ』

　なんか気になる言い方だな。
　ヤーネンの奴もそう思ったらしい。「？」てな表情で俺とおっさんの顔を見回している。
『気がついたかい？　さすがだねえ…今から200年てとこかな。いや、もっと前かな…？　それくらい昔にクレータにいたって言う女サポーターなんだ』
『おいおい…俺は別に…』
　昔話を聞きたかったわけじゃねえんだが。そんな今はもう死んでるような奴の話はどうでもいいんだ。
　すると、指を一本立てて…ひょいひょいと振りやがる。なんなんだよ。
『まあ待ちなよ。話はここからだ。…出るんだよ、そいつが』
『何が』
『アデレードだよ。ア・デ・レー・ド。迷宮内でな』
『はあ？　何百年も前のサポーターなんだろ？　なんで今んなって出てくるんだよ？』
　俺とあいつはすでに会ってるんだ。いや、あいつは奴から依頼まで受けてるんだぞ…？　そんな大昔に生きてた奴と会ったり依頼受けたりできるわけねえじゃねえか。

『だから…そういう噂なんだよ。出るって』
『あのさ、えっとさ、もしかしてそれってさ』
　ヤーネン？　なんだか顔色良くないぞ？
『幽霊って…こと？』
『バカなこと言ってんじゃねえよ…それじゃまるで俺らが幽霊にだまされた、って言いてえのか？』
『だまされたかどうかは分からねえがな。そういう話もあるってこった』
『あのなあ…』
『まあまあ、モナークもよく知ってるはずだよ？　迷宮に関しては色んな話がある、って。中にはこういう話だってあるさ』
　…そ、そりゃあ、まあ、な。
『美人でなんでも知ってるんだが…ひょい、といなくなっちまう。それがアデレードって名前の幽霊サポーターなんだとよ。どうだい？　面白かったかい？』
『…趣味悪いぜ。ったく』
　ち。作り話で水三杯かよ。やっぱりなんだか損したような気分だぜ。

　それからすぐに俺らはここを発つことになった。まあ、あいつが少し買い物したいって言うんで、ちょっと付き合ったけどな。あいつが自分の水で買ったのはピルロの実だ。キロの実の変種だがバカ高いのでも有名だな。あんな水筒の水くらいじゃあ、一つも買えないほど値が張るんだが…おっさんがまけてくれたんだ。感謝しろよ、めったにねえんだ、そんなこと。
「えっへっへー…なんかいいね、こういうお買い物」
　大事そうに背中の荷物にしまいこむ。
「地上じゃできねえからな。水を使うなんてな」
　おっさんに挨拶して、ヤーネンとホルガ先生に挨拶して再び迷宮だ。ヤーネンたちは10階層目まで一度行って、今は地上へ戻って来てるんだと。1階層目で荷物を置いて、それからまた潜るらしい。ご苦労なことだ。

「そう言えばさ」
「なんだ？」
「ホルガ先生がね、下の階層でね、なんかやけたんだかあぶられたんだか、そんな石を見たんだって」