TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[1-24]

　モナークの手を引っ張って、くるりと曲がって…えっと…あり？　何？　この床の赤い囲み？　ええっと…？
「え？」
「トラップの跡だ…床がねえんだよ、ここは…！」

　ああああああああああああああああ…ああ、あああああああああああ…？

　おふ。うっひはー…。ちょっち…きつい…かな…。からだは…だいじょぶ、かな…。

　ああ、なんか見えてきた。天井…？　そう言や、迷宮の天井って、やっぱし石だよね…2階層目で見たじゃん、あはは。でも今見えてるのは…なんか…真っ暗だなあ…それとも真っ黒…？　うーん、あれって天井だよね？　壁…じゃないよね？　って、僕今寝転がってるんじゃ…。

　は。

　…なんだろ…ここ…？　コチューゴケがいっぱいだ。壁一面のコチューゴケ。3階層目で見たあのコチューゴケいっぱいのとこと似てるけど、違う。なんだか濃いんだ、光が。でもその濃い光は壁の、僕の肩よりちょっと上くらいだけ。それより下は普通ってとこなんだ。でもそれでもこんなに光るんだ、コチューゴケって。
　おとぎ話なんかに出てくる海賊の隠した財宝部屋とか。ああいうのはこんな感じ…なわけないか。挿絵ではそう見えるけど、あれはそう描いた方がそれっぽく見えるからってことくらい僕だって知ってる。黄金って言ったってあんなに光るわけないじゃん。それにコチューゴケの光ってそういうぴかぴかしたのとは大分違うんだよね。なんて言うか優しい光と言うか…じんわりと光だけにじみ出してくるような、そんな光。でもそんなでもこんだけ集まってると…すごいなあ…キレイだなあ…。
「ねえ、モナーク？」
　あり…？
「モナーク…？」
　まさか…いないってことは…？　そろっとあちこち見回してみたんだけど…いない…あの、のぼっと背の高いモナークが…どこにも見当たらない…。

　どうしよう。
　もう一回上を見上げてみると、やっぱりなんか暗い。あそこまでコチューゴケの光が届いていないのかな？　それとも…そうだ、僕ってここに落ちて来たんだよね、てことは…あそこは上から落ちて来た元、ってかつまりは穴があるってこと…？
　そうだ。モナークも一緒に落ちて来たはずなんだ。あのでっかい顔に追われて…それから？
「モナーク…？」
　やば。なーんか…ヤバいぞ、こりゃ。こういうとこにいるってのも相当にヤバいんだけどさ、なんつーか、その、ええい、泣いちゃダメなんだ。こういう時は。そんなことしてる場合じゃないんだ。迷宮ってのはさ、必ず迷うもんなんだって教わったじゃんか。今がその時なんだよ、だから…うん。

　どうにかしないといけないんだ。
　身体は…よし、大丈夫。特に痛いとことかケガっぽいとこもない。うん…立ち上がってみてもどこもヘンじゃない。
　上は…無理かな。この壁を登っていくのはやっぱ無理っぽいね。コチューゴケがあってもつるつる滑るし。そもそも石壁なんだから上、ってのは無理だわ。
　じゃあ、ここから出てどこか…そいでモナーク探して…。そうだ、どの階層かは分からないけど、ここにも店があるんじゃないかな。そこで聞いてみよう。ここはどこかって。モナークはどこかって。

　でもさ、ここって…なんか妙に床が柔らかいような気がするんだけど…なんだろ、コチューゴケじゃないよね？
　小さな葉っぱ？　すんごい小さな葉っぱがたくさん集まってるような…小指の先よりも小さくて細くて、なんだか糸…ってほどでもないけど、なんかそんな感じかな。それがいっぱい集まって絡まり合ってる。あー…もしかしてここへ落ちたから僕、大丈夫なのかな？　結構分厚くこれが重なってて、ふっかふかのベッドみたいだ。ちょっと跳ねてみよう…あは、そこまではいかないや。でも柔らかいなー。
　でもこんな地下の迷宮にこんなのあるんだ？　なんて言うんだろ…この…コケ？　モナークなら知ってるのかな。

　あう…ダメだ。ちょっとの間、モナークのこと考えるのよそう。

　ここに一緒に落ちて来てないってことは、多分、落ちる途中でどっか別のとこに落ちたんだ。それとも3階層目のあのわなんとこで、どうにか残ったとか。大丈夫、あのモナークだよ？　わななんかでどうにかなるとは、僕には思えないね。

　とにかく。今はここを出て店を見つけることだけ考えようそうしよう。うん、よっしゃ、そうしよう。