TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[1-26]

　あ。荷物…モナークに放り投げたまんまだ…あの中に水筒もあったのに…。…それからナントカの実もあったんだ…しばらくは水も何もナシかあ…。
　んむっ、何暗くなってるんだあ？　僕は？　とにかくここから出よう。うん、それには…えっと…。

　そうだ。アタマに付けてるコチューゴケを取り替えよう。こういうとこから始めよう。うんしょ…っと。ほい…っと、せいやっ…。ふうん、やっぱりここのは元気いいんだね。光り方が違うよ…でも、なんでか下の方にないんだ。だから、ちょいと何回かジャンプしてとってみたよ。
　今までのを…ほっ…と。ちょっと盛り上がってるとこへね、押し付けとくね。これでこれもせいちょーしてくれるんだしね。ああ…でも…なんかやっぱり明るさが違うや。今までのはなんだかぼやあっとぼんやりしてて暗いんだ。でもここのは精一杯に元気なんだ。…いいね、こういうのは。これから明るく行けるかもね。

　よし。準備完了っと。…えっと…杖は…あったあった。あんなとこに落ちてるよ。

　…そこで僕はこのふわふわゴケ（たまには僕がめいめいしたっていいっしょ？）から跳び下りたんだけど…跳び下りる？　いや、そんなに高いわけないじゃん、とか勝手に思ってたんだ。でもよく見ると…お祭りか何かのお立ち台って言うか。何かを「乗っける」台…そんなバカな。第一、土台はこのふわふわゴケしかないじゃんか。こんなふわふわなふわふわゴケだけでどうやってこんな高さの台に仕上げるってのさ。
　ふわふわ…ふわふわ…。
　おおう、やっぱりふわふわだ、このふわふわゴケ。…なんか呼びにくいね、この名前。混乱しちゃう。「ふわゴケ」にしちゃえ。

　でもやっぱりここにはこのふわゴケしかないんだ。広さはちょっとした部屋くらいはあるんだけど。エギアの僕の家の、僕の部屋よりは広いかな。こないだやっと一人部屋をもらえたんだけどね、元々物置だったからそんなに広くはないんだけど。でも僕一人が横になっても大丈夫なくらいはあるから、ここはそれよりもずっと広い、ってことになるね。
　そうだ。僕、ここ、この部屋を全然調べてないや…。もしかしたらまだわなとかあるかも知れない…。出る前に少しでも調べておいた方がいいっぽいね。杖で…こんこんこん、こんこんこん。…うーん、床は普通に石なんだね。そこら辺は他と変わらないや。

　しばらく台っつーか…ふわゴケの盛り上がったところ、と言うか。その周りをぐるっと杖ついて歩いてみたんだ。

　何もないね、こりゃ。床はホントフツーに石だし。それも上の3階層目で見たのとどこがどう違うのか分からない。あのホルガ先生なら違いが分かるかも知れないけど、僕には無理。そういう石の床がね、ぐるっとホント何もなく四角くなってるだけで…。
　あれ？　何か…おかしい。
　何かが足りないんだ、この部屋。えっとね、ちょっち、考えてみよう。
　真ん中に台があって、そこへふわゴケいっぱい。そう見える。んで、壁には僕が手を伸ばして届くくらいのとこから上ぐるっとにコチューゴケが生えてる（それもとびっきり元気なやつね）。…天井は…なんだか真っ暗なんだ。だからここは3階層目よりは下、ってことになる。うん。そこまではいいんだけどね。
　いやいやいや。待て待て待て。よくないって。

　…どうやって出たらいいんだろう？　この部屋、ドアも何もないんだ。そういう出入り口っぽいのが全然ないんだ。
　隠しトビラ？　そんなのがあるとこもあるってのは昔何かのおとぎ話で読んだよ。でも…いやいや、ここで止まってちゃ、ダメなんだ。さっきは床を杖で突きまくったんだから今度は壁をつついてみよう。モナークもよくやってたじゃんか、それでドアが出てきたらそれが正解なんだね。

　………

　だみだこりゃ。

　フツーに石壁だよ、ほんと。何もない。何もないんだ…この部屋。

　いや…待ってよ。一つ、でかいのがあるじゃん。この台。ふわゴケが勝手に生えてここまでふわふわしてるんだ、と思ってたんだけどさ、ちょっと違うよね。…杖を差し込んでみよう。
　ずぼっっ！
　底が…ない？　そんなことあるわけないよね。てことは…底が深いってこと？　横から見てみたら明らかに床より下まで杖が入るんだ。どんだけ厚いんだって話だよね？　こりゃ、僕くらいのが上から落ちてきても大丈夫なわけだよ。ヘタしたら僕の身長なんかよりずっと長い、いや、深いのかも知んない。
　えい、えい、と何回か差し込んでみると…おろ？　何か当たるぞ…こつん、こつん、って。…何かあるのかな。手…じゃ無理か。アタマから突っ込んでみよう…うわ、中、あっつ！　ムシムシしちゃってるよ…顔だけ暖炉に突っ込んだみたい。エギアじゃさ、暖炉なんかめったに使わないんだけど何年かに一度だけむちゃくちゃ寒くなる時があるんだ。その時だけ火を入れるんだよ。僕が覚えてるだけでも一回だけそんな冬が来たことあるんだけど。

　おー、あったあった。何だこりゃ？　黄色くて丸くてぱらぱらっと茶色い斑点があって。大きさは両手で軽く持てるくらい。ちょっと重いな…え？　なんか…動いたような？　おわあ、何コレ…これって…タマゴだったの？　ひびがね、ちょっとずつ入っていくんだけど…？