TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[1-28]

　…うーむ…何だろね、これ。

　僕が今、手にしているのは…多分タマゴなんだと思う。タマゴって言っても毎朝食べるアレじゃないよ？　そんな小さくないし…何よりうまそうじゃないね、これは。カラが厚くて硬そうだし、それに…。
　なんかね、ヒビが入ってるんだ。いや、僕が持ち上げたせいかな…ヒビがね、少しずつ、少しずつ入ってくんだ。広がってる…そう、ヒビが広がってるんだ。てことはさ、何かが生まれてくるってことだよね？　こういうのから生まれてくるって言ったら…やっぱり鳥かな。それともヘビとか？　それともトカゲ？　なんだろね？

　あ。僕が手で持ってちゃいけないのかな、こういうのは。
　えっとお…ふわゴケの中にあったんだから、上に置いとけばいいのかな？　そっとね、そっと…うわああ、動いた、動いた？　なんか、ごそごそってタマゴが動いたよ？　なんで暴れるのさ？　あんたがさっきまでいたとこなんだから、ここでいいっしょ？　…おんやあ…ヒビの真ん中んとこ…そっちを上にしてふわゴケの上に置いたんだけど…そこにね、なんだろ？　トゲみたいな…いや、あれはトゲじゃないね、うん、あれは…指だ。
　タマゴの中から指が一本。わっはは、そんなんあるわけないじゃん、何言ってんの、僕。
　よく見たら小指の爪の先くらいの、ううん、もっと細い、ペン先みたいなみたいなのが突き出しているんだ…。

　なんか見入っちゃうよね、こういうの。

　どのくらい時間が経ったんだろ。ずいぶん長いこと見続けてたような気もするし、あっという間だったのかも知れない。タマゴのカラをつきやぶるためなんだろうね、あのペン先みたいなのが何度も何度も出たり入ったりして。少しずつカラが破れていって。そして…ついに頭がでてきたんだ。
　そこから回転するように、するり、どろり、と体もね、出てきたんだ。タマゴの方は三つか四つくらいに割れちゃった。カラの裏ってさ、こういうことでもないと見ることなんかないんだけど…やっぱり薄い皮みたいなのが張り付いてて、それから…なんか水みたいのが入ってるみたいだね。出てきたこのコもなんかちっと濡れてるみたいなんだ。

　出てきたコはね、トカゲみたいな…ヘビみたいな？　うーん…そうだ、あの変な大きな顔に似てる気がする。ヤ…ヤミギツネだっけ、そんな名前の、アレ。
　でもあれほど顔は大きくないし。でもやっぱり親指くらいの太さの細長い体してて、手と足も…あるんだろうか。あ、あったあった。ちっちゃいねえ…あのタマゴって僕が両手で持てるくらいだったんだ。その中に、この細長い体がぐるぐるっと入ってた…わけじゃないのかな。このコの長さってそんなに長くないんだ。僕の手から肘くらい？　そんなもんなんだ。あのタマゴの中にはこのコとは別に何か入ってたのかな…？
　あ…目が開いた。黒いよ、黒い。すんごく黒くてかわいいなあ…。
　すすっと顔を…いや、首ごとだね、こりゃ。ヘビみたいに首だけ上げてるんだけど、ヘビとはちょっと違う。手と足がきちんとあって、手をふわゴケの上について首を持ち上げている感じ？　足もね、こんなにちっちゃいのにきちんと踏ん張ってさ…なんかけなげってやつ？　こういうの？
　体が乾いてきたみたい。茶色っぽい体に黒い目。顔は長丸。胴体は親指くらいの太さで小さなウロコがあるみたい。だけどがさがさしてなくて、すっごく滑らか。コチューゴケの光をてらてらとはねかえして、キレイ。宝石みたいだ。それにね…よーく見るとね、手と足の先にツメがあるんだ。すんごくちっちゃいの。

　そおっと手を差し出してみた。…ふんふん、と匂いでも嗅いでるみたい。大丈夫かな、噛み付かれたりしないかな…？
　え？　何？　ちょっと…？
　するするっとね、僕の手に乗って、それから腕をのぼってくるんだ。あはは、くすぐったいって、あは、えー…どこまで行くつもりなの？　腕から肩まで登って…耳から…頭、頭の上？
　なんか…変な感触がするんだけど。ごんごんごん、がんがん、って何かつっついてるような。えっと、僕の頭の上ってことは…コチューゴケの筒？　あれって金属でできてるから、たしかにこのコがつっつくとそんな音がしそうなんだけど。なんで？

　下ろしてみよっか。頭の上からの光はなくなるけど、ここはこんだけ明るいからね。問題はないよ。…僕が筒を下ろすと一緒にくっついてきちまった。この筒はモナークにもらったものなんだけど金属でできていて、片方にガラスをはめこんである。そのガラスを一生懸命つっついてる。…このガラスが好きなのかな、このコ。ってそんなことないか。
　まさかと思うけど。このコ、中にあるコチューゴケが好きなんじゃ…？
　ちょっち試してみよう。ガラスを開けて…中のコチューゴケを出してみると…うわあ、すごいすごい。ものすごい勢いでコチューゴケ食べ始めちゃった。ぱくぱくぱくぱく…いいなあ、なんか美味しそうだなあ、でもさすがに僕には食べられないや。あ…ほとんど全部食べちゃったね。ここにはまだたくさんあるからさ、もっと取ってあげるよ。
「ポポポ…ポポポ…」
　あれ、そんな声で鳴くんだ？　へえ…。

　コチューゴケの筒を頭の上に戻すとこのコも一緒に頭の上に登るんだ。で、またがんごん始めるんだけど…僕はちょっと思いついて壁の方へ寄ってみたんだ。そしたら…ちょろっと見上げてみたら…このコ、壁のコチューゴケを食べ始めてるんだ。どうも足だけで僕の頭の上に立ってるみたいなんだ。
「ポポポ、ポポポ…」
　あはは。嬉しそう。そうだ、このコの名前はポコポコにしよう。なんかそれっぽい名前だと思わない？