TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[1-29]

　しばらくポコポコにコチューゴケ食させてたんだけどね。…おなかいっぱいになったのかな？　静かになっちゃった。

　そうっと手を頭の上に伸ばしてみると。くるくるっと巻いてるんだ、あの細長い体を。眠ってるのかな…動いてないんだけど、生きてるってことくらいは僕にも分かる。ちょっち、頭を揺すってみよう…お？　お、おお？　もうちっと強く頭を振って…おろろろろ？　これでも落ちないんだ、ポコポコ。しっかりつかまってるのかなあ、僕の髪の毛ってそんなに長くないんだけど、大丈夫なのかな？　それてもあのちっちゃな手足で一生懸命どっかをつかんで…
　あり？　そう言えば別に髪の毛も頭もどこも痛いとか、そんなことないね？　
　じゃあ、ポコポコはどうやってつかまってるのかな？　…そう言えばなんかちょっと頭が重いって言うかひっつれてるって言うか。なんかいつもとはちょっと違う方向へ引っ張られてるって言うか。たしかになんか違うよ？　これはポコポコが僕の頭の上で何かにつかまってるからなのかな。よく分かんないけど、なんかすごいね。

　…ふー…。

　少し、だけどさ。なんか…気が楽になってきちった。僕は今ここに一人じゃないんだね、とか…なんかそんなこと考えちゃったよ。ここにはポコポコもいるし。モナークもさ、多分、だけど探してくれてると思うんだ。僕のこと。
『依頼人放り出して地上へ帰るサポーターなんて、俺はいやだ』
　とかなんとか言いそうだよねー、モナークなら。そいで、僕を探してくれてると思うんだけどねー…そうだ、早いとこ、ここを出なくちゃ。店があればそこで情報がもらえるかも知れないんだから。

　あーでも、なんかまったりしてきちゃった。
　…よっこら…せっ、と。迷宮の床ってさ…つめたいんだよねえ。ああ、そうか。僕、迷宮の床に座るのって初めてなんだ。今までずっと歩き通しだったもんね。そう言えば眠くなったらどうするんだろ。あ…そっか。モナークならどっか眠るためのばしょ、しってるんだ。そうなんだよね…だってもなーくってばもなーくなんだから…。

　………。

　は。やば。寝てたよ、おもいっきし。…暑っ！
　あれ？　でもなんで僕こんなにあのお立ち台に近い場所で寝てんの？　近いっつーか…なんか暑いわけだよ頭だけふわゴケに半分くらい突っ込んでるよーな…？
　ポコポコ？　何してんの？
　目の前にポコポコのほっそいおなかが見えるんだ。びろーんって頭の上から。で、ちっちゃい手も見える。何をしてるのか、と言うと…今度はふわゴケ食べてるみたい。それももりもりと。やっぱりちっちゃな口が動いてるのがここからも見えるんだけど…暑い。いや、ホントに暑いって、こんなとこに頭突っ込ませるなあ！
　…ふふふ。力では僕には勝てないよ、ポコポコ君。いや、ポコポコちゃんかも知んないけどさ。
　ずるずるっと頭ごと引っ張り出したんだ。はずみで床に転がるポコポコ。さすがに僕の頭からは落ちちゃうね。…あー…ふるふるっと首振ってる。で、じ…っと僕を見上げてくる…うわ…なんか…。

　すんごい罪悪感。

　そうだよ。ポコポコはまだ赤ちゃんなんだよ。赤ちゃんは食べて寝るのがお仕事だって、エギアで母さんとよく話してる古物商のおばあちゃんが言ってたよ。そうだ…赤ちゃんには優しくしないといけないね。僕の方がお姉ちゃんなんだから。
「ごめんね…ポコポコ。さ、仲直りしよう」
　手を差し出すと、やっぱりするするっと登ってきて、僕の頭の上に。ここが気に入ったのかなー。でもやっぱりここからでもお立ち台のふわゴケ目指して文字通り体を伸ばしてる。うん、分かった。僕も覚悟を決めたよ。
　お立ち台の上に跳び乗って…
「行くよ…そーれいっ！」
　軽くジャンプ（と言っても下がふわゴケだからそんなに高くは跳べない）してまるで水に飛び込むようにふわゴケの中へ…！

　…ま、まあ、マイノス王国に海はないしエギアに湖もないからさ（あるのは井戸と貯水池ばっかり）。僕は泳いだこと…ないんだけど。でもどっかのおとぎ話で読んだよ？　お姫様を助けるために崖の上から飛び込む勇敢な若者！　もちろん助けたお姫様とは結婚！　てね。だから水に飛び込むってのは多分こんな感じなんだと思うんだけど。
　あづい。あづすぎるうう。
　まさか海の中ってこんな暑いわけないよね？　僕の体の上半分くらいはふわゴケに埋まってるんだけど…意外と暗くはないんだよ？　コチューゴケの光がきちんと中にまで入ってくるから。ふわゴケもみっちりがっしりしてるわけじゃないから光をきちんと通すし。でも…暑い。そんだけ。
　ポコポコは嬉しそうに食べてるから、ま、いっか。
　…とかそんなことも言ってらんない。いいかげん僕がゆで上がっちゃうよ、これじゃ。一回頭を上に出そう…両手をついて…。

　…なんか…嫌な予感はしてたんだけどね。
　足を下にした瞬間。ごそっと足元の何か（つまりふわゴケ）がごそごそっ！　と抜けるような妙な感覚の後。
　僕はまた下へと落ちていくのだった…。