TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[1-31]

　ぷっはー！　そんな簡単に落ちるかー！　落ちてた・ま・る・かーい！

　ずるずると滑るんだけど、このふわゴケ、結構がんじょうなんだ…それにね、こういう時はね、思いっきりよく、ね…登るんじゃないんだ。足を…かける場所…見つけて…一気！
　この一気が重要なんだ。ぼやぼやしてるとまた滑っちゃうからね。少しでも体が上に行ったらしめたもの。すぐにもう一つの足をかけるとこ、探らないと。それから手、手だよ。やっぱり。右手でふわゴケを、わしっとつかむ。そいで次は左手…が、があ…また足が滑った！　いんや、まだまだ。こうなっはらくひもひゅかうかんね、ひっかりくはえて…うむむむむむ！

　…おおおお…うっし…。

　なんとか床に戻った僕。ポコポコは…なんかきょろきょろしてるみたい。良かった…無事か。あのままポコポコだけ落としちゃうとかイヤだもんね。さすがに疲れちった…ふう…。

　………

　ポコポコはまた寝ちゃったみたい。僕も…床に座り込んでる、また。
「どうしよう…」
　声に出してみたけど、何も変わんないよね、このままじゃ。
　僕がしないといけないのは…ここを出ること。ここを出るためには…上か下か、それとも横へ動かないといけない。そのうちの横、つまりこの階層に出るためには扉が必要なんだ。でもそれはないみたい。あんだけ詳しく調べたもんね。でも、ここに扉はない…。じゃあ下か、って言うと…。
　ぶるぶるぶる。
　いや、さすがにあれはないっしょ？　一体どんだけ下に続いてるんだって話でさ。あのまま落ちてたらいくら僕でも無理だって。つぶれたカエルみたいになっちゃうよ。そんなのもイヤだな…もっと、こう、カッコよく？　しゅたっ、ってね、こんな感じに着地できたら…。
　ぶるぶるぶるぶる。
　…あー…無理無理。一応ね、こういう「とびおりる方法」てのをね、父さんに習ってたんだけどね。父さんが教えてくれてたのは、えっとね、きほん迷宮で…使うせん、せんと…せんと、と、とと…なんかその辺はいいよね。要するに迷宮用の突き蹴りシメ腕取りなんだってこと。…別に他行ったら全然使えない、とかそんなんじゃないよ？　ただ、父さんのお仲間さんとかはやっぱり迷宮みたいな場所で戦うことが多いから、ってのと…マイノス王国と言えばやっぱりミノマリナ迷宮だからね。そういう場所で使いやすい戦い方なんだってさ。

　だから高く跳ぶこともないし、長い武器も使わない。僕はさ、ルートセラーだからさ、武器持っちゃいけないんだ。だから素手でやるけど父さんたちは違うんだ。短い剣とか棒とか使うんだ。ひゅっ、ひゅっ、てね。カッコいいよ？　見てると。実際にやるとね…結構しんどいもんなんだけど。
　それと一緒に「とびおりる方法」てのも教えてもらったんだ。一番カンタンなのは足と腰を使うこと。こうね、ぐいっ、ぎゅっ、ふわん、てね。そんな感じで落ちた時に足から腰までふにゃふにゃにしちゃうんだ。膝と足首を上手に使うこともポイントだね。ふわん、ふわり、ふわん、て感じで…
　え？　難しい？　と言うよりよく分かんない？
　そっかなー、カンタンだってば？　こう腰から下の力抜いてさ、ぐい、ぎゅ、ふわん、ふわり、ふわん…ね、カンタンじゃない。父さんとかだと体ごとごろごろ転がったりする方法も知ってるみたいだけど、あれは…あっちの方がだんぜん難しいって。なんか色々説明もあったけどよく分かんなかったし。

　…？　ポコポコ…？

　なんか…音…？　いや、声…なんかそんなのが聞こえない？　上から…？　それともお立ち台かな…？

　ちょっと調べてみよう。…お立ち台…ううん、違うなー…って、ポコポコまた食べ始めちゃったよ。ほら、僕がたくさん採ってあげるからあっちで食べよ？　ここだと暑いからさ。

　……？

　やっぱり何か聞こえるよ。下から…かな？　横から…かな？　どこだろ…あいたっ！
　何か落ちてきた…？　やっぱ上から聞こえてたのかな？　何が落ちてきたのかな…石？
　…石なんかじゃない。これは…僕のカバンだ…モナークに押し付けたやつ…。

「モナーーク！　そこにいるのー？」
「……ば…を…ろ…」
「なにー？　聞こえなーい！」
「…ば…ろ…か…」
「ばかってなんだー！　ばかってー！」
　すると今度はホントに石が落ちてきた。…僕に当たらずに床に当たって、かっつーん、かつん、と跳ねて…止まった。
　手にとって見ると。何か紙切れが巻いてある。
『カバンを見ろ』