TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[1-32]

　聞こえるわけねーだろ！

　一体どれだけの高さだと思ってんだ。俺だってようやっとあのバカの姿を確認（つってもなんとか見えたくらいだ）できたってのに。…あいつのカバンにゃ水やピルロの実が入ってる。ついでに手紙をつけておいたから大丈夫だろ。文字が読めねえとかそんなことは言わねえよな。
　ったく。手間かけさせやがって。アジャの縄は…お、あったあった。よし、行くぞ…！

　………

「で…どうなったって？」
「あのね、んとね、これがポコポコー！」
　ぐい、となんだかヘビだかトカゲだか分からんもんを両手で俺の顔の前まで押し付けてくる。ぶるぶると嫌そうに首だか胴体だかを振っているが…なんだこりゃ？　なんて生き物だ？
「…それはさっきも見た」
「んじゃあ、んじゃあね…ほら、これ、ふわゴケー！」
「ホクチゴケな」
　こんもりと盛り上がった…何かの台かね？　お立ち台とはよく言ったもんだが。同じように光るが、コチュウゴケと違ってこいつらは集まると熱を持つ性質がある。あれだけあったら相当に熱いだろうな。
「そう、そのなんとかほっちふわゴケー！」
「触ると熱いぞ」
「うん！　あついー！」
　なんでこいつはこんなに元気なんだ…？　眠すぎてハイになってんのか？

　3階層目にしっかりと端をくくりつけて、アジャの縄を垂らして降りていったんだ。手紙に大体のことを書いておいてな。だから…こいつがいくらバカでも下でおとなしく待ってろ、くらいは理解できていたらしい。それに縄がふらふら揺れないようにどこかその辺の石にくくりつけておくくらいはできてたしな。そこまでバカじゃねえんだよな、こいつは。
　あんまり高いとこは好きじゃねえんだが…そうも言ってられねえ。
　もし地上だったら風が吹いて縄はもっと揺れただろう。でもここは地下の迷宮だ。風なんか、そよとも吹きゃしねえ。だから地上でこれくらいの高さから縄をつたって降りるよりははるかに楽かも知れねえな。…でもなあ。下、見たらなんだか意識の一部でも持って行かれそうだってのは…やっぱ変わらんもんだ。風がないったって全然揺れねえわけじゃねえ。俺が手足を使ってる間はどうしても揺れっちまうからな。下を固定してもらって、本当に助かった。
　4階層目を過ぎる…。
　ちら、とだが。ちら、とだけ4階層目の床の断面を見てみたんだ。本当は何かのわなか装置があったはずで、3階層目の落とし穴（今はただの穴になっちまってる）から落ちて、ここで操作するか何かすれば発動するはず、なんだが。

　何の変哲もない…とは言えねえな。何せ「床の断面」なんか見たことねえから。ヤミギツネから逃げる時はそんな余裕なんかなかったし…わざわざ見るつもりもなかった。
　石の断面…何かが爆発したんだろうか…？
　爆発で砕け散った石とかそんなものも見たことはねえよ。でもな…もし、人工的に作られたもんだったらもっとこう…それこそ誰かがやったみたいに石がすっぱり切れてるとか、例えば壊れたちょうつがいとかネジが転がってるとか、なんか…そういうもんがあると思うんだ。そういうのが一切見えない。でも石の断面はかなり乱雑でいびつだ。大きな何かが一気にぶち当たったか…それとも何かの爆発でもあったのか？　そうなると…？
　…いかんいかん。あともう少しなんだ。下を見るのはやめよう。
　あれは…酒場で会った昔サポーターだったじいさんだったかな？　木登りの秘訣は降りる三歩前にある、ってな。うっかり落ちてケガでもしたらせっかく木に登った意味がない。無事に地上に降り立って初めて木に登ったって誇ってもいいんだ、ってな。

「うわーい、モナークお帰りー」
「おう。ただいま」
　ふう。ようやく着いたぜ。…って…
「なんだそりゃ？」
「ポコポコー！」
　頭の上でとぐろ巻いてる…いや、本当になんなんだ、こりゃ？
「あんまりここでゆっくりもできねえ。ちょっと休んだらすぐに3階層目に上がるぞ」
　ここにもきちんとコチュウゴケがあるんだな…ん？
「おい。お前…大丈夫か？」
「何が？」
「眠くないか？」
「…ほえ？」
「コチュウゴケは時間によって色が変わるんだ。今は…もう地上で言えば夜だ。迷宮に潜ってから丸一日経っちまってるんだよ」