TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[1-33]

　…まあ、ほんのちょっとなんだがな。
　色が変わると言っても緑が赤に変わったりするわけじゃない。迷宮では奥の奥、伝説の300階層目にも生えてるとされてるコチュウゴケだが、なぜか地上の太陽の動きと連動しているとされている。日が昇ると明るさを増して、日が沈むと暗くなる。でもそれはほんのわずかな差でな。俺らサポーターとかコケの研究してる先生方くらいにしか分からんだろうな。もちろん理由なんて分からねえ。コチュウゴケに聞いてくれ、ってとこだ。
　一応Dランクになる時に「明るさの見分け方」って試験がある。でも所詮は地上でやるからな…あんまりアテにはできねえ。
「ここで少し寝ておいた方がいいな」
　荷物から毛布を取り出す…でも、ここ結構暑いな。ホクチゴケが熱いってのは聞いてたけど、ここまで暑くなるもんかね？　特定植物ってのも大したもんだ。
「えー…寝るの？」
「体は休める時に休めとくもんだ」
「でも僕、眠くないよ？」
「後できつくなるぞ？」
「…さっき少し寝たもん」
「そうかい。じゃあ、俺はちょっと横にならせてもらうぜ」
　やっぱり毛布、いらねえな。
　ということで俺は石の床にごろりと横になったんだが…。

「ねねねね、モナーク、モナーク、ほらほらほっちふわゴケー！」
「ポコポコだめだよ…少し食休みしないと」
「おおーん、ぎぎーん、どどどーん！」

　…うるせえ。走り回るな。
　しかもうとうとっとした頃になるといきなりこいつが話しかけてきたりする。眠れたもんじゃねえよ。
「だからよ、その話はさっきも聞いたぜ…」
　床に頬杖ついてそこへ顔乗せて。体、半身にして。少しでも休めておきたいんだがな…サポーターならいつでもどこでもすぐに眠れるように常に意識してる。眠くなくても体は休めるようにな。だが…一度「眠ろう」と思った体をまた引きずり起こすのはちょっとキツイもんがある…。
「そだっけ？　でもね、あのお立ち台の下にね、僕の足が…」
「ああ、ああ。もう分かった分かった。少し寝かせてくれ」
　それでもなんだかめんどくさくなってきた。あいつに背を向けてごろりと寝返りをうつ。…少しは眠れるかね。

　…お立ち台の下？

「おい」
「ふゃひ？」
「お立ち台って…あそこに下があるのか」
「ありゅよ…ひた」
「どういうことだ？　あそこの下は空洞になってん…！」
　一気に目が覚めた。いや、体が起きた。跳ね起きた。
「ありゅよ…ありまふよ…ぼくにも…ぽこぽこにも…ひた…」
　すでに熟睡してやがる。そりゃ、舌はお前にもこいつにもあるだろうよ。しっかし…なんて寝方してやがる。俺が背を向けてたから、俺の背中に向かって座っていたんだろうが…それがそのまま後ろへのけぞちまってるような格好だ。自分のカバンを背中に背負っていて、それがマクラ…にまではならねえな。この大きさじゃ。ま、いいとこ肩辺りでクッションみたいになってやがる。…かえって変な格好に見えるな。両足はともかく両手が、だらん、と床に垂れ下がっているのもやっぱりどこか変だぞ。気の抜けた人形みたいだ。
「…ったく」
　とりあえずきちんと寝かせてやるか。すやすや寝息まで立ててやがる。さっきまであれだけ元気だったってのに…。
「…うん？」
　ほう？　頭の上にいるこいつ…ポコポコとか言ったか。
「ポポポポポ…ポポポ！」
「はは。俺がこいつに何かするとか思ってんのか？」
　生意気にかま首をぐい、ともたげてきやがる。じゃますんなよ。
　とりあえずカバンを外してやって、背中を床につけてやる。こいつのことだから、きちんとした姿勢にしてやってもどうせ手足があっちこっち向くんだろうからこんなもんでいいんだろう。毛布もいらねえしな。
「ポポポ、ポポ…」
　しかしこいつ、一体なんなんだ？頭の上から動こうともしねえんだが。

　迷宮にもヘビはいる。毒があるけど小さくて全身真っ赤なカッショクカテナリ（死ぬと体の色が暗褐色になる）とか水場に時々いるイシカベカガシ（おとなしいやつで毒もねえ）とかな。でも…こいつはヘビじゃねえよな。小せえけど前足も後ろ足もある。トカゲ…？　ハナヒカリトカゲ（俺の靴くらいの大きさで、腐った肉とか食う）とかハイイロアノール（壁走りとか呼ばれてるすばしっこいトカゲだ）とか…なんか、そういうのとは全然違うな。なんなんだろうな？