TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[2-1]

2:死なざる者達の謎

　はあい？　みなさん、お元気？
　あたしの名前はジーノ・バルトリーニ。「ジーナ」って呼んでね。…え？　ジーノって男の名前なのになんで女の「ジーナ」で呼んでくれって？　そりゃあ…決まってるじゃない。あたしってば…体は立派なオ・ト・コ。でも心はオ・ン・ナ。心って体より優先されるものでしょ？　だからジーナでいいのよ。よろしくね。
　そして職業はマイノス王国クレータ分署迷宮警備隊内部担当第2班しょ・ぞ・く。同じ迷宮警備隊でも、5階層目以下に配属される内部担当班って言ったらエリートなんだから？　外の迷宮の上しか警備できない隊員とは、ちょっと違うのよ。
「アンブロージョ・L・バルトリーニ隊員。警らの時間だ」
　あら。出番が来ちゃったみたいね。ここはあたし達内部担当の警備隊員の詰め所。5階層目にあるのよ。コチュウゴケの光に満ちた、まあ、小さな小屋なんだけど。中には寝台もあるし食料もあるの。しばらく立てこもることだってできちゃうんだから。
「ハーヴェイ・マナスミス隊員。君もだ」
　こうやって班長から呼ばれた二人が警らに出るの。ハービーはここ一年くらい相棒やってるからよく知ってる間柄よ。
「行きましょ？　ハービー？」
「ああ…」
　どうかしたのかしら？　なんだか元気ないわね。
「どうしたの？　体の具合でも悪いの？」
「いや…そうじゃない…」
　やだ。顔が真っ青。
「…今日の運勢があまり…良くないんだ。外出は控えるべし。外出するなら赤いリボンを持っていくべし。ラッキーアイテムは…銀のスプーン。ああ…どっかに…あったかな…」
　ちょっと変わってるって他の人に言われるけど、そうかしら？　でもいい人なのよ。そう、このあたしみたいにね。

　ハービーが炊事所の方に行っちゃったから、ちょっと待って、それから出ることにしたの。ところでね…知ってた？　迷宮内ってね、お化粧禁止なの。香りの低い香水とかちょっとした紅くらいならいいんだけど、あまりに匂いのきついものは全部NGね。ものによっては迷宮内の動物とか植物にいけない影響を与えることもあるからなの。だからほとんど持ち込めないのよ…困っちゃう。
　仕方ないから警備隊の女性隊員とかあたしとかは匂いのしない、軽いものを中心に選んで持って来てるの。それに、迷宮の中って場所によって乾燥してたり湿ってたり、違ってきちゃうでしょ？　だからお肌にはあまり良くないのよね…。
　あら。ハービーが戻って来たわ。なんか嬉しそうね。
「あったの？」
「ああ、あった。ふふふふふ…これなら…大丈夫」
　スプーンに赤いリボン巻いて。そっと胸ポケットにしまってる。かっわいい。
「それから…夕飯は焼き肉だって…さ」
「ええ？　あら…それなら警らできちんと動かないと。また太っちゃう」
「ジーナはそれ以上…やせなくてもいいと思う…」
「そんなことな・い・の。女の子はいくらでもやせたいって思うんだから」
　んもう、女心がわかってないんだから。

　え？　迷宮内って火を使っちゃいけないんじゃないの、って？　焼き肉なんかできないんじゃないのって？

　それはね。炊事所の周りを見てもらえば分かるわ。…そう水場。迷宮のあちこちから水がしみだしているのは知ってるでしょ？　でもその中には濁ってたり水質があまり良くないのもあるの。そういう水場でね、ぐるりと堀を切っちゃうの。水の境界線みたいなものかしら？　その真ん中に机一つ分とかそれくらいのかまどを一つ切って、そこでだけは火を使っていい、ってことにしてあるのよ。
　もちろん小屋の上には最低でも2階層分の空間を作ってね。小屋とか建物を作らないのは燃え移らないようにするため。迷宮って風がないでしょ？　だから燃え移りにくいんだけど、それでも火って燃える物を伝わっちゃうのよね。そのために炊事所の周りには何にもなくしておくってわけなの。
　ハービーが行ってたのは炊事所の方にある食堂。火を使った料理だけそこへ運ぶってわけね。火は毎回きちんと消すことになっていて、毎月回ってくる火元責任者と隊長が二人で確認するの。ちょっとでも残ると大変だから、神経使うわよ…？

「じゃあ、行きましょうか」
「…ああ」
　コチュウゴケの入った筒持って。杖と…非常用の荷物。そして警棒。あたしたちはこれだけを武器に警備するの。長い刀とかそういうのは迷宮じゃ、意味ないでしょ？
「そう言えば…隊長と班長から伝言、あった。食堂で聞いた」
「あら何かしら」
「少々やっかい…な連中がいるから、気をつけろ、と」
「やっかい？　気をつける？」
　するとハービーは、うう、と呻いて天を仰いで…上向いた顔に手を当てちゃうの。…何か間違って困った時の彼のクセなのね。
「違った。…二人組がいたら手を出すな、と。背の高いサポーターと、小さいルートセラー」
　へえ…？　何かあるのかしら…？