TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[2-6]

　やだ。すーるーどーい、あの子。

　5の町ってね、警らのルートが大体決まってるのよね。まずメインストリートでしょ？　ここは大したことないのよ。大きい通りなんだけど、歩いてる人も少ないから。あたし達がそんなに気にする必要もないのよ、実際は。店とか家とかもいくつかあるんだけど…でもね、どうせ何かあっても即突入！　ってわけにもいかないんだから。緊急の通報でもあれば話は別だけどね、いくらあたし達だって許可も何もなしに突っ込むわけにいかないの。もちろんそういう許可が出れば話は別よ。でもこんな場所じゃ、そんなことはまずあるわけないのよね。…あたし達が来てからだって起きたのはちんけなかっぱらいにこそ泥に…ま、それくらいなんだから。その前だってクレータほどに事件なんか起きてないのよ。
　それでも小さなケンカとかもめごとなんかは起きるけどね。事件、ってほどにはならないわね。でもヒマってわけじゃないのよ。

　そういうのが起きやすいのがこの大水場。焼き場用の水囲いとはまた違う水なの。だから飲んでも大丈夫よ。と言うよりここの水がないとみんな喉が渇いて死んじゃうわね。だからとっても重要なの。町中もそうなんだけど、ここでの警ら、ってのが一番大事になるんじゃないかしら？
「新顔が、いる…」
「またサポーターとその連れでしょ。いつものことじゃない」
　迷宮に潜ってくる連中って、大抵はほとんどが新顔ってことになるわね。サポーターは知った顔が多いけど、案内してるのが新顔ってことになるのよ。時々はサポーターでなくても知った顔、ってのもいるけどね…あんまり見ないわね、って…あら？
「モナークじゃない、あれ」
「…知り合い？」
「クレータで、ちょっとね。アリサって弾丸職人がいて、その子の幼なじみなのよ。その縁でちょっと話したことあるわ」
「アリサって、あのアリサか…」
「そう。こないだのクレータのシューター弾丸品評会で1位とった子。若いけどいい腕してるわよ？」
　でもあの子って体もいいのよね。出るとこ出てんの。どばばん、って。うらやましくなっちゃう。性格も悪くないし…なんでオトコの一人もいないのかしら？　もったいないわね。

　そうそう。あたし達だってずっとこの迷宮にこもりっぱなし、ってわけじゃないのよ。時々だけど休暇もあるし、用があればクレータにまで上がることもあるわ。特に5の町勤務の場合は地上に近いじゃない？　だからそういう用事も少なくはないってわけ。だから地上にも知り合いは多いのだけど。
「ちょっと行って来ようかしら。アリサからの言づてもあるし…」
　え？　どうしたのハービー？
「待って。あれ。…連れがいる」
「そりゃ、連れくらいいるでしょ？　サポーターなんだから」
　迷宮で誰かを案内するのがサポーターの仕事。当たり前じゃない。そんなこと知ってるはずなのに、ねえ？
「そうじゃない。隊長と班長からの伝言。多分、あれだ…」

『背の高いサポーターと小さいルートセラー』

「…手を出すな、って？」
「そう、言ってた」
　ふうん…。
「あ。移動する。小さい方」
　モナークは水汲みで忙しそうね。小さい方は…男の子かしら？　ちょっとよく見えないわね。
「何かしらね…？」
「ジーナ、何する気？」
「ちょっと確認してくるだけ。すぐに戻るから…待ってて？　オ・ネ・ガ・イ？」

　…なんだか気になるのよね、何かしら？　あの子、何持ってるのかしら？
　やけにわき腹を気にしてるのよね。痛い…？　違うわね、何か肩から吊ってるんだわ。そこに何か入れてるんだわ。
　5の大水場って、大きく壁が崩れた跡にできたみたいなの。どうして崩れたか、までは分からないわ。でも大きく崩れたからここまで大きくなったみたいなの。そこへこの町ができたってわけ。一つお利口になったでしょ？
　でもね、そのおかげで町の周りにはこんな風に大きな石がごろごろしちゃってるの。迷宮の闇を照らしてくれるコチュウゴケは水がある方がたくさん茂るらしくて、そんな大きな石にもびっしり生えてるわ。しかもとっても明るくね。だからこの辺はとっても明るいの。
　そう、よく見えるの。コチュウゴケがたくさんある辺りからそおっと近づけばよく見えるはずなの…。

「誰？　誰かいるの？」
　ま。鋭い。完璧に気配消してたはずなのに？
「僕に何か用？　そこの石の陰、なんで隠れてるのさ？」
「別に隠れるつもりなんてないのよ、坊や」
　こうなったら仕方ないわね。
「あたしはマイノス王国クレータ分署迷宮警備隊内部担当第2班所属ジーノ・バルトリーニ。ここで何やってたの？」