TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[2-9]

　おおっと、あぶねえ。

　これをなくしちゃ、あのバカに何言われるか分かったもんじゃねえからな。…中は…と、おいおい。こんな騒ぎになってんのにぐっすりと寝てんじゃねえよ。ぐるぐると巻いたまんま筒の中に詰まってやがんの。まるでどっかのお菓子だな、こりゃ。
「モナーク！　それ返してえん」
　げ。オカマの警備隊員じゃねえか。たしかジーノとか…。
「だめだよ、モナーク！　ポコポコ渡しちゃだめだかんね！」
　お前はお前で何やってたんだ？　ったくよう…。

　使える奴だとは思っていたがな。まさか警備隊員相手にあそこまで立ち回れるとは思わなかったぜ。俺たちサポーターの鉄則は『危ないものには近づかない』だ。だから警備隊相手にするようなヘマはしねえようにしてる。言い方は悪いが、基本的にはすぐ逃げるようにしてる。この迷宮に入った時…1階層目へ落ちた時なんかがいい例だな。迷宮に潜るのが目的で、あいつらと事を構えるのが目的じゃねえってわけだ。
　もし何かあったら…？　か？　どうしても警備隊とやり合わなくちゃならねえ場合、ってか…？
　そりゃあできるだけのことはするつもりだがな。それでもやっぱりスキを見て『逃げる』だろうな。こいつほどの技量持ってる奴ならこうして戦おうとするかも知れんさ。でもこんな奴が普通にいると思うか？　いるわけないだろ…だから逃げるんだ。己の身の安全てのは大事だぜえ…？　それに相手は本物の格闘のプロなんだ。刀とか剣とか、そういうもんを持ってもいいのに短い棒しか持ってねえ。そんなんで食い詰めた迷宮侵入者や違法なサポーターと渡り合ってる。まずかないっこねえよ。
　それに警備隊員てのは二人一組か、それ以上で組むのが基本になってるはずだ。だから…。

「モナークってばその筒渡しなさいよ…何が入ってるのか調べないといけないんだ・か・ら」
「ダメダメダメダメ、ぜったいダメだよ、モナーク。こんな人にポコポコ渡すなんて、ダメだから」
「ま。言ってくれるじゃない。こんな人…？　警備隊員相手にほんと、言うわね」
「ふん。知らないもん、そんなの。ポコポコは僕が守るんだからね。お姉さんには絶対渡さない」
「うふ…お姉さんなんて。かわいい坊やね」
「ボーヤ？　何だよ、それ。棒がどうかしたっての？　そんなん別にどうだっていいじゃんか。モナーク、ポコポコ渡しちゃダメだかんね！」

　あー…やっぱりいたか。
　5の大水場からちょいと離れた石の後ろ。…ちょっとしたギャラリーみたいなもんまで出来ちまってるんだが、それに隠れるようにもう一人いるな、警備隊員が。こいつがこいつの相棒か。ちらちらこっち見てるからすぐ分かる。
「おーい、あんたがこいつの相棒か？」
「……」
　なんで石の奥にまで隠れる。俺、ただ呼んだだけだぞ？
「とりあえず、だ。こんなとこでごちゃごちゃやってても仕方ねえだろ？　なあ？　俺らは逃げたりするつもりもねえからよ」
「………」
　こそっと顔を出したのは…えらいひょろっとした警備隊員だな。俺も長いこと色んな隊員見てきたが、ここまで細いのは初めてだな。大抵の奴は鍛えまくってるからガタイのいい奴ばっかりなんだ。
「ハービー？」
「どうする？　ジーナ…」
　ジーナ…あ、そっか、こいつジーナ・バルトリーニか。アリサの友達だったっけ。…まあ、オカマの警備隊員なんてこいつくらいしかいないんだけどな。
「…詰め所に来てもらう？」
　ようやくこっちまで来やがった。なんでこいつはこんなにびくびくしてるんだろうな。
「ダメだよ、ポコポコは渡さないかんね！」
　何やってんだ、おめーは！　んな大声出したらまたこいつがびびっちまうだろ！

　…それから何回かハービーとか言うやつが隠れたり出たりして。ちょっと手間取っちまった…。

　俺らはとりあえず、ということで詰め所まで行くことになった。別に悪いことしてるわけじゃねえしな。ただ、筒の中身、つまり火吹き竜かも知れねえアレをあんまり人に知られたくないだけだ。ジーナなら俺のこともよく知ってるし…俺はあんまり知らんけどな、でもアリサの友達なら、まあ、大丈夫か。
　ああ、そうだ。アリサってのはクレータの弾丸職人で、俺の幼なじみなんだ。最近会ってねえけどな…なんだ、知ってたのか？
　相棒のハービーもそんなに悪そうには見えんし…。
「…火吹き竜…ああ…やっぱり今日は外に出なければ良かったんだ…」
　しっかし。おいおい…そんなに怖がるもんか？　見た目は小さなヘビだぞ？　これっくらい迷宮ならどこにでもいるだろうに。壁際まで後ずさりなんかしてやがるけど…そんなんで警備隊員なんて務まるのか？
「えーと…噛み付いたりしない？」
「大丈夫。ポコポコおとなしいから」
　こいつを取り上げたりしない、ということをジーナとハービーに約束させたらこのバカはまた機嫌が良くなっちまってな。どこまで信用できるのか分からんってのに…相変わらずお気楽なもんだ。