TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[2-10]

「…つまりこの子は拾ったわけね？」
「まあ、そういうこと…になるかな」
「ポコポコはね、ふわほっちゴケの中から生まれたんだよ」

　調書、きちんと取った方がいいのかしら…？
　実はさっきハービーに班長のとこに確認に行ってもらったのよ…そしたら、やっぱりこの二人組だ、って。つまりは「手を出すな」ってことなのよね。あたし、思い切り手出しちゃったけど…いいのかしら？　黙っておけばいいのかしら？　そのハービーは班長と隊長のところまで行ってるわ。さすがにここまで大きそうな案件だとねえ…あたしたちだけじゃなんだから判断を仰ぎに行ってもらってるの。今はその待ち時間ってわけ。
「ね、ねね、ポコポコと一緒にいてもいいんでしょ？　ね？」
　この子は元気ねえ…さっきまでとは大違い。小さな詰め所だから仮眠用のベッドはあるけど来客用には小さなテーブルとボロい椅子が一組、とかそんなものなの。そもそもはあたしたちがちょっと休んだりする程度のところだもの。取調べとかそういうのは本部の方でやるから、ここは最低限のものしかなくって、地上から来た人にとっては狭っくるしく感じるものなのに、ねえ？
「今のところは大丈夫よ。安心なさい」
「わーい」
　モナークがそうでもしておかないと話が進まんぞ、とか言うから…仕方ないんだけどね？　まあ、多分大丈夫でしょ。こんな小さな生き物くらい。
「…でも迷宮からの無許可の持ち出しは禁止よ？　分かってる？」
　ちょっと意地悪してみたくなるのよね、こういう無邪気なの見ると。…と、ちょっと…首をかしげて。
「えっと…それでもいいよ。だって、迷宮内でなら一緒にいられるってことっしょ？　一緒にいられるならなんでもいいよ、僕は」
　んでそのポコポコとやらを腕に絡ませて嬉しそうに頬ずりしちゃって、まあ。それにしても火吹き竜ってこんなに人懐っこいものなのかしらね。伝説とかだとかなり怖い生き物になってるけど。まだ小さい子供だから、ってことなのかしら？
　でも…大丈夫なのかしら、ほんとに、この子。こんなので世間の荒波の中、生きていけるのかしら…？　モナークの方を、ちら、と見たら…やれやれ、って感じで肩をすくめて見せたりして。大分気を使ってきたのかしら…？

　あ。そうそう、忘れてたわ。
「モナーク？」
「なんだよ？」
　こういうとこは相変わらずぶっきらぼうねえ。
「アリサからの伝言。聞きたい？」
「…いいよ、別に今は。どうせしばらくしたら地上だからな。その時に聞くわ」
「そお？　急ぎみたいだったけど…？」
　ふふ。関心なんか全然ない、みたいなふりしちゃって。本当は気になって気になって仕方ないはずなのに。
「そっか？　んじゃあ、聞いておくか」
　視線が泳いでるわよ。動揺してんのね？
「何の話？」
　あら。いいタイミングね。
「大人のお・は・な・し。でもちょっとだけバラしてあ・げ・る。モナークと地上のことよ」
「え？　何？　何？　モナークがどうしたの？」
「あのね…」
　モナークは…あら？　なんか…反応薄いわね？　壁の貼り紙…迷宮の色んな情報について載せてるんだけど、そっちをじっと見ちゃって。
「どしたのさ？」
「んとね…モナークのいい人がね、今度迷宮に潜るかも知れないの！」

「いい…ひと？　何がいいの？」
　あららら…まだお子ちゃまってわけね…。ぽかーんとした顔しちゃって。
「モナークの恋人ってことよ」
「こいびと？」
　さあ、ここでモナークが絶対キレるわよ『あんなんは恋人とかじゃねえよ！』ってね。顔真っ赤にしちゃってかわいいんだから…って、あれ？　いつもならここでそういうリアクションが…。
「へえええ…モナークのこいびとっているんだ、地上に。すごいなあ、えっと…え、え、えんきょりらんがいってやつだね」
「欄の外に放り出してどうすんのっ！　それを言うなら遠距離恋愛ね。…ん？　ちょっと違うわね。迷宮とクレータって別に遠距離ってわけじゃないものね」
　あら…モナークは…？

　？　…壁の…何を見てるの？　あれは…何だったかしら？　何かの記事を載せてた辺りね。クレータ新報って言って地上から定期的に送られてくる新聞なんだけど？
「ジーナ…」
「どうしたの？」
「この記事なんだが…」